怪我・外傷

クマに襲われたらどうなる? 広範囲の「クマ外傷」に複数の診療科が連携するチーム治療・メンタルケア

【形成外科医が解説】クマ外傷は、一般にひどい皮膚欠損から骨折、血管・内臓損傷まで多岐にわたることが多いです。救急科に始まり、形成外科、整形外科、血管外科、消化器外科、精神科などが連携して治療します。命を守る治療から、再建、心のケアまで、段階的な治療の流れを分かりやすく解説します。(※出典:shutterstock.com)

井上 義治

井上 義治

皮膚・爪・髪の病気 ガイド

形成外科専門医

慶應義塾大学卒業後、形成外科、一般消化器外科、乳腺外科、頭頚部外科、整形外科の研修を経て、現在、横浜いずみ台病院勤務。総合診療に従事しております。 2013.8.25 読売新聞「からだの質問箱」で巻き爪について執筆しました。 215.3.10 公明新聞で「ロコモティブシンドローム」を執筆しました。

...続きを読む
チーム医療

クマ外傷は多岐にわたることがあります。その場合、複数の診療科が連携して治療にあたります


万が一クマに襲われてしまった場合、身体だけでなく心にも大きな衝撃が残ります。治療の現場では、怪我の大きさだけでなく、患者さんがどれだけ不安な状態にあるかも丁寧にくみ取りながら進めていきます。

まずは救急科による、命を救うための初期治療……全身状態と外傷範囲の把握も

クマに襲われてしまった患者さんが搬送されてきた場合、初期治療を担当するのは救急科です。外傷の程度や状況により治療は異なります。救急科のみで治療が終わることもありますが、クマの爪や牙で攻撃を受けている場合、複数の臓器損傷など、広範囲な治療が必要なことも珍しくありません。

救急科が全身状態と外傷の範囲を迅速に把握した後、各専門の複数の診療科がチームで治療に当たります。

形成外科、整形外科、消化器外科など……損傷部位の専門医が各治療を担当

クマ外傷

クマ外傷 皮膚欠損 再建

クマ外傷で一般に多く見られるのが、「広範囲の皮膚欠損」です。皮膚再建は形成外科が担当します。しかし命に関わる緊急性はありませんので、初期の処置によって、全身状態が落ち着いてから行います。慌ただしい状況でも、患者さんが後に困らないよう「できるだけ元の姿に近づける」ことを意識して再建が進められます。

血管に大きな損傷がある場合は、血管外科による再建治療が行われます。ほとんどのクマ外傷の場合、血管処置の大部分は、出血している血管を糸で縛る「止血結紮(しけつけっさつ)」で解決しますが、重要な血管が損傷しているときは再建が必要です。この場合は命に関わるため、多くは緊急手術になります。

骨折がある場合は整形外科が担当します。状況に合わせて、創外固定・髄内釘・プレート固定などを行い、骨をくっつける治療を行います。クマによる傷から菌やウイルスに感染する可能性もあるため、傷の汚染状況も考えて固定法が選択されます。

ごくまれに消化器や呼吸器などの内臓を損傷することもあります。その際は消化器外科・呼吸器外科の医師による緊急手術となります。欠損した臓器を修復したり、他の組織を使って欠損部分を再建したりすることもあります。

術後・退院後の精神科によるサポート……急性ストレス障害やPTSDの継続的ケア

ほぼ全てのケースで、クマに襲われた経験は強烈な心理的ショックを伴います。精神的な動揺は受傷直後から見られますが、急性ストレス障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)につながっていく可能性もあります。

そのため、緊急治療が落ち着いた段階で精神科が介入し、必要に応じて退院後も外来フォローを継続します。

身体の傷が治ってきても、心の痛みが残るケースは少なくありません。治療チームは、その回復も大切に見守りながら支えていきます。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

カテゴリー一覧

All Aboutサービス・メディア

All About公式SNS
日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
公式SNS一覧
© All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます