『交通トラブル六法 「知らなかった」では済まされない道路の新常識』(藤吉修崇著)は、弁護士YouTuberの著者が、教習所では教えてくれない道路交通法の“危険な盲点”や、交通トラブルから身を守る法的知識を解説する一冊。
本書から一部抜粋し、高速道路の「最低速度」を守らない場合のリスクについて紹介します。
<目次>
高速道路を「遅く走る」のも違反?
高速道路を走っていて、前の車がやたら遅い。「スピード違反は取り締まりを受けるけど、遅い分には問題ないでしょ?」──本当にそうでしょうか?実は、高速道路では「遅すぎる走行」も法律で禁止されています。最低速度を下回って走ると、違反になるばかりか、事故リスクも高まり、損害賠償の場面で自分にも過失が認められることがあるのです。
今回は、意外と知られていない高速道路の最低速度ルールと、違反した場合にどうなるかを、きちんと条文ベースで解説します。
道路交通法では「時速50km未満は違反」
高速道路の最低速度について定めているのは、道路交通法第75条の4です。つまり、最低速度の標識がある区間では、その標識の速度以上で走らなければならない、最低速度の標識がない区間でも、政令で定めた最低速度以上で走る必要がある、ただし、危険防止などやむを得ない事情があるときは例外となる、ということです。さすがに渋滞中に最低速度を守れ! などと無茶は言いません。「自動車は、法令の規定によりその速度を減ずる場合及び危険を防止するためやむを得ない場合を除き、高速自動車国道の本線車道(政令で定めるものを除く。)においては、道路標識等により自動車の最低速度が指定されている区間にあつてはその最低速度に、その他の区間にあつては政令で定める最低速度に達しない速度で進行してはならない。」
そして、政令で定める最低速度は、道路交通法施行令第27条の3に「政令で定める最低速度は、五十キロメートル毎時とする。」と規定されています。
つまり、高速道路では、標識がなければ時速50km未満で走行してはいけない、というルールです。もちろん、渋滞や事故、悪天候といった「危険防止のためやむを得ない場合」には例外が認められます。
「ゆっくり=安全」は高速道路では通用しない
「ゆっくり走る分には安全だから違反にならない?」これは完全に間違いです。高速道路では遅すぎる走行も危険な行為とされ、最低速度違反に問われる可能性があります。法令違反になるだけでなく、他車に迷惑をかけ事故リスクも高めます。「最低速度違反なんて取り締まりを受けないでしょ?」スピード違反に比べると少ないですが、極端に遅い走行は実際に取り締まり対象になります。警察に停止させられ、注意や違反切符を切られた例もあると聞きますが、私自身は見たり聞いたりしたことはありません。
「追突されたら100%後ろが悪い?」これも誤解です。通常、追突事故は後続車の過失ですが、先行車に落ち度(正当な理由のない急ブレーキなど)がある場合、先行車にも一定の過失が認められることがあります。最低速度違反により追突事故が起こり、前車に過失が認められる可能性もゼロではありません。まあ、原則は追突した方が100%悪いケースがもちろん多いですが。
「煽り運転された仕返しにノロノロ走ればいい?」これは完全にアウトです。故意に低速走行して後続車を妨害する行為はやめましょう。
最低速度より遅く走ると過失に
高速道路では、最低速度がきちんと法律で定められています。違反すれば、普通車の場合、反則金6,000円、違反点数1点の処分を受けます。しかし、本当に怖いのは、事故を起こした場合に「遅すぎた走行」が事故の原因の一部と認定され、自分の過失が増えることです。
弁護士からひと言!
また、高速道路上では「追いつかれた車両の義務」も重要です。道路交通法第27条により、車両は、「最高速度が高い車両に追いつかれたときは、その追いついた車両が当該車両の追越しを終わるまで速度を増してはならない。」と定められています。つまり、後ろから速い車が来た場合は、無理に加速して妨害することなく、追い越しをスムーズにさせる配慮が必要です。
「自分は安全運転しているつもり」でも、遅すぎる走行は立派な違反です。運転に不安がある場合は、高速道路の利用を避ける、一般道を使うなどの判断も検討しましょう。
結局どうすればいい?
藤吉 修崇(ふじよし・のぶたか)プロフィール●高速道路では、標識がなければ時速50km以上で走行しなければならない
●危険防止などやむを得ない場合を除き、これを下回ると違反となる
●遅すぎる運転は事故リスクを高め、損害賠償の場面でも不利になる可能性がある
●追いつかれた場合は速度を上げず、追い越しを妨げないよう注意する
東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業。弁護士法人ATB代表弁護士。大学時代に演劇に没頭し、スコットランドへ留学後、舞台演出や空間プロデュースに携わる。30歳を過ぎてから一念発起し、猛勉強の末、司法試験に合格。弁護士法人ATBを設立。YouTubeチャンネル「二番煎じと言われても」では、道交法の理不尽な状況を法律の観点から解説し話題となり、登録者数は20万人を超える。







