今回は、世界史的視点と戦後日本政治史の視点で「保守」と「リベラル」の現在について解説する『世界史講師が語る「保守」って何?』(茂木誠著)より一部抜粋し、第2次安倍政権の功績である外交政策、特にトランプ氏との関係構築や対中戦略の世界構想について紹介します。
<目次>
史上最長の長期安定政権
2020年夏、安倍首相は潰瘍性大腸炎の再発を理由に、辞任表明しました。高支持率を維持したままでの退陣であり、政権は官房長官の菅義偉に引き継がれました。第2次安倍政権を振り返ってみると、最大の功績は長期安定政権を維持したことだといえます。首相在任期間は第2次政権だけでも2822日、第1次政権を加算すると3188日、いずれも日露戦争期の桂太郎内閣を超えて、史上最長を更新しました。
日本の首相の名前「アベ」が、これほど世界に浸透したことはいまだかつてありません。政権の安定は外交関係を安定させます。サミットごとに首相が代わっていたかつての日本は、それだけで国際的信用を失っていました。首相の顔を覚えても、次回には別人が来るのでは話にならないからです。
安倍首相は、ドイツのメルケル首相とともにサミット(G7)最古参の政治家となっており、これだけでも財産でした。さらに安倍首相は、ロシアのプーチン大統領、アメリカのトランプ大統領のような強面(こわもて)の大国指導者の懐に入り、信頼されるという特技を持っていました。
この「猛獣使い」の才能も、各国指導者に重宝されました。サミットでは、トランプ大統領と「反トランプ」の西欧各国指導者との調停役として、重きをなしたのです。
対中包囲網という世界戦略
また、もともとビジネスマンで外交に疎かったトランプ氏に、対中包囲網の必要を説いたのが安倍首相でした。2016年、トランプ当選の直後にニューヨークのトランプタワーを訪れた安倍首相は、持論である安全保障のダイヤモンド構想──日・米・豪・印による対中包囲網を説きます。アベ構想はトランプ政権の「自由で開かれたアジア太平洋構想」として正式に採用され、日・米・豪・印の非公式同盟である「4カ国戦略対話(クアッド)」が発足し、インド洋での合同軍事演習「マラバール」に、海上自衛隊がレギュラー参加するようになりました。
一方の中国は、もはや隠すことなく、際限のない軍備増強を続けています。建国100周年の2049年までに台湾を含めた「祖国統一」を実現するのが、習近平のいう「中国の夢」なのです。しかも中国は国連安保理事会の常任理事国ですから、拒否権を発動できます。いざという場合に、国連は日本を助けに来ません。
このような中国軍の現実的脅威に対し、自衛隊の戦力だけでは日本を防衛することはできません。だから、日米安保に豪・印を加えた4カ国同盟──東アジア版のNATOで対抗しようというのが、安倍首相の基本的な世界戦略でした。
彼はその実現のためにトランプタワーを訪れ、トランプとゴルフ外交を重ね、オーストラリアやインドを何度も訪問したのです。戦後の日本の首相で明確な世界戦略を持ち、強力なリーダーシップで実行に移せた人物は、安倍と中曽根だけです。
茂木 誠(もぎ・まこと)プロフィール
作家、予備校講師、歴史系YouTuber。駿台予備学校、ネット配信のZEN Study(旧N予備校)で世界史担当。『世界史で学べ! 地政学』(祥伝社)、『「戦争と平和」の世界史』(TAC)、『教科書に書けないグローバリストの近現代史』(ビジネス社・共著)、『「リベラル」の正体』(WAC出版・共著)、『世界の今を読み解く政治思想マトリックス』(PHP)、『日本人が知らない!「文明の衝突」が生み出す世界史』(ビジネス社・共著)、『弱肉強食の現代史18バトル』(KADOKAWA)など著書多数。YouTubeもぎせかチャンネルは、登録者23万人。







