『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(舟木彩乃著)は、「この人さえいなければ、もっとストレスなく働けるのに」と思わずにはいられない“問題がある職場の人たち”についての事例と解決策を紹介する一冊。
本書から一部抜粋し、「あからさまに特定の部下だけをえこひいきする上司」の心理を掘り下げながら、賢い対処法を解説します(全2回の後編/前編を読む)。
心理的背景|自分が一番かわいい〝えこひいき上司〞
「えこひいき上司」に被害を受けた小沢さんの話を聞いていて、その上司(Dさん)は部下を実力ではなく好き嫌いで判断し、部署を運営しているという印象を受けました。このような上司のもとで働くようになってしまった場合、部下はどのようにすればよいのでしょうか?上司は、従順で自分の意見に対して否定しない部下を「信頼できる」と感じることがあり、その結果えこひいきが生まれることがあります。
これは、職場での安定(地位の安定など)を求める心理が働いているためで、Dさんの場合は、仕事ぶりが皆から評価されている小沢さんに対して、自分の地位が脅かされる危機感を抱いた可能性があります。
それが「小沢さんを外し、従順なEさんを重用する」というえこひいきを生んだことと関係しているように思えます。
今回のケースでは、双方の心理的背景についても着目する必要があります。小沢さんとDさんは、心理学的には「嫌悪の報復性」という関係性にあるようです。
読者の皆さんにも経験があると思いますが、人間関係において、自分が〝苦手〞と思う相手に、いつの間にかネガティブな感情が伝わっていて気まずい関係になることがあります。
そうすると、自分が苦手意識を抱いている相手が、自分に対して同じようにネガティブな感情を抱くことになります。その逆パターンとして、自分が好意を持つと、相手も好意を持ってくれる「好意の返報性」という関係性が生まれることもあります。
対処法|えこひいき上司とどう付き合う?
本事例のようなケースでは、「一致効果」を意識するとうまくいくことがあるかもしれません。アメリカの心理学者ジョナサン・コーラーは、相手の意見に合わせる人は、その相手から信用されやすいことを心理実験で明らかにし、「一致効果」と名付けました。実力に大きな差がなければ、自分のやり方に反対する部下よりも賛同する部下を引き上げたいと思うのは、上司の心理からすれば当然かもしれません。
なので、上司に反対意見を伝えるときは、「Dさんのものの見方や考え方は、とても勉強になりました」などと相手を尊重したうえで、「ですが、今回のケースは従来と違いまして……」と、控えめながらも自分の意見をしっかり主張するようにすれば良いでしょう。
ただし、「一致効果」に期待して、あまりに節操なく相手に合わせて自分の意見をコロコロ変えていると、時間の経過とともにそのことが裏目に出る場合もあるので、注意が必要です。
えこひいきされている同僚がいた場合、その同僚を単なる太鼓持ちだと決めつける前に、自分が気づいていない魅力や特技があるかもしれないと思って、よく観察してみるとよいでしょう。実力ゼロの人が、ご機嫌取りというだけで上司に気に入られることは、実際にはあまりないように思います。 舟木 彩乃(ふなき・あやの)プロフィール
心理学者(ヒューマン・ケア科学博士/筑波大学大学院博士課程修了)。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」/筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻長賞受賞。メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。官公庁カウンセラーでもあり、中央官庁や自治体での研修・講演実績多数。文理シナジー学会監事。AIカウンセリング「ストレスマネジメント支援システム」発明(特許取得済み)。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタント技能士2級などを保有。Yahoo!ニュース エキスパート オーサーとして「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。







