そこには結婚生活において女性が感じる不平等感や、女性だからという理由で押しつけられるさまざまな問題などが関与しているのではないだろうか。
姓の問題、女性の立場
「結婚するとき、私は自分の姓を変えたくはなかったんです」そう言うのはリサさん(37歳)だ。彼女は仕事では旧姓を使用しているが、給与振り込み、パスポートなどは夫の姓になっている。
「仕事で海外出張するときはちょっと面倒ですね。取引先が現地ホテルの予約をしてくれたときも、いつもの名前ではなく、本名はこちらですとわざわざ説明しなくてはいけない。『日本は夫婦の姓が同じじゃないといけないの?』と驚かれたこともありました」
いっそペーパー離婚して自分だけ旧姓に戻ろうかと考えたこともあるが、夫から「子どもたちがかわいそうだ」と言われて思いとどまった。
「8歳と5歳の子がいるので、現実的には私だけ違う姓になったら子どもが傷つくかなと。ちゃんと説明して分かってもらえる時期が来るまで待つしかないと思いますが、いつか絶対に旧姓に戻るということは決めています。私は子どもたちを自分の命に代えても惜しくないほど愛している。でも、それと旧姓の問題とは違う話。同じ姓でないと家族としておかしいという風潮こそ、おかしいと思っています。家族のありようなんて、人それぞれでいいはずなのに……」
結婚は個人と個人のものなのに……
相変わらず別姓制度は施行されそうにない。むしろ遠のいている感もある。姓は女性が変えなければいけないわけではない、どちらだっていいのだから話し合えばいいという声もあるが、実態は結婚して改姓するのは女性が約95%という確率だ。もはや慣習として、女性が姓を変えるものだと決めてかかっている人すらいる。「結婚は相手の戸籍に“入れてもらう”もの、男性から見ると“うちの戸籍に入れてやる”と思っている人も少なくありません。だから“嫁”という感覚もなかなかなくならない。結婚は個人と個人のものなのに、今でも“家と家の結びつき”の側面も消えない。婚姻制度にともなう、血筋とか一族とかの感覚も、私にはなじめないんですよね」
そんなことを言うなら結婚するなという声も聞こえてきそうだが、結婚のような個人的なものへの感覚を、他人がとやかく言うことはできない。そしてそう感じさせるだけの歴史が、婚姻制度にはあるのだから。
家庭内における男女平等は、進んでいるようで実は遅々として進んでいないのではないだろうか。
結婚を続けることが義務になっている
「私の場合、夫への愛情はほとんどありません。恋愛結婚したのに、恋愛感情はどんどん目減りしていった。共働きなのに家事育児は私に丸投げ、深夜に子どもが泣くと『なんとかしろよ』とよく言われた。でもどうして私だけがそう言われるのか不思議でした。夫より私の方が仕事が忙しかったのに」妻だからだと、マイさん(40歳)は言う。“妻”だからこそ、夫は自分が動くのではなく、「なんとかしろよ」という命令口調になるのだ。妻は夫より下だと思っているんだろうなとマイさんは常に感じながら生活してきた。
「それでも今、10歳と7歳の子を育てなければならない。子どもには愛情と責任がありますから。ただ、夫にはどうしても愛情をもてない。子どもたちへの夫の向き合い方も、私には納得できないことばかりです。そもそもうちの親戚が集まったとき、『わが家の命令系統はオレから下に下りていく』と言い放ったことがあって、私側の親族からは要注意人物に認定されているんですよ、夫は」
特にマイさんの妹は、義兄にあたるマイさんの夫を嫌悪している。よくあんな男と一緒にいられるわねと言われたこともある。
12年の結婚生活が教えてくれたこと
「人間ってすごいなと思うのは、私、夫の命令口調に慣れてしまっているんですよね。ああ、また言ってると右から左へと抜けていく。真剣に受け止めてはいないから大丈夫と妹に言ったら、実際には相当ストレス抱えていると思うよと言われました」ただ、深刻に受け止めても夫が変わるわけではない。12年の結婚生活はマイさんに「あきらめること」を教えてくれたと彼女は苦笑した。
「愛がなくても続けなければならないのは、やはり経済的な問題ですね。私だけの収入では、子どもたち二人を大学まで行かせるのは無理。離婚しても、養育費が必ず担保されているならとっくに別れていると思う……」
経済的な問題で別れられない夫婦は多い。我慢しているのは圧倒的に女性だろう。主たる稼ぎ主であるだけで、家庭内で威張る権利などないはずなのだが、妻の人権をも踏みにじるような言葉を平気でぶつける夫もいまだに存在する。
「結婚って何なんだろう。最近、よく考えます」
マイさんの表情が曇った。
<参考>
・「結婚と愛情の関係を分析するアンケート調査」(レゾンデートル株式会社)








