社会人の娘と話すと「なにそれ」ばかり
社会人になったばかりの娘の言葉に、最近、いちいち「なにそれ」と突っ込みたくなるというのはアズサさん(54歳)だ。結婚して24年になる夫と共働きで、二人の子を育ててきた。「一番気になるのは『最適解』ですね。私が仕事でこんなことがあって、こういう選択と決断をしてこうなったと話すと、『お母さん、それ、まあまあ最適解だと思うよ』って。最適解という言葉も疑問だし、『最』がつくのに、どうして『まあまあ』なのかがさっぱり分からない。そう言うと『気分の問題よ、気にしないで』って。気分で言葉を選ぶなと言いたくなりますね」
というのも、アズサさんは中学校の国語教師。今どきの子どもたちの言葉の乱れには慣れているものの、子どもよりむしろ娘世代のほうが問題かもしれないと言う。
「最適解」は使い勝手がいい?
「私たちが若いころだって、たぶん気分で言葉を選んでいたとは思うんです。だからうるさいことを言うつもりはないんだけど、近ごろの言葉はジャンルを超えていく。最適解なんて、もともとは数学や経済学で使われてきた言葉ですよね。それが日常用語になったことで、分かりづらくなってる。娘の使い方なんて曖昧ですしね。それをビジネスで使ったら誤解が生じるんじゃないのかしらと心配になっちゃう」しかも、目上の人に「それ、最適解ですよ」と言うと、上から目線に思われる可能性が高いのではないかとアズサさんは感じている。
「どうしてこの言葉がこんなにはやっているのか分かりませんね。娘に聞いても分からないと言うんですが、夫は『現状で私は最適解を探しています、なんて言うと、それなりに頑張っている感があるからじゃないか』と分析していました」
誰もが使い勝手がいい。そんな理由ではやるものなのかもしれない。
「選択肢はない」
さらにアズサさんは、大学生の息子が使う「~という選択肢はない」という言い方も気になっていると重ねた。「息子は同好会でサッカーをやっているんですが、試合を前にいつも『負けるという選択肢はない』と言うんですよ。なんだかおかしな言葉遣いだなとずっと気になっていたんだけど、学校でも生徒たちがよく使う。そりゃ試合に負けたくないんだと理解はできますが、そもそも試合において『負ける』は『選択肢』なのだろうかという疑問がふつふつと(笑)」
選択肢、というのは自分の意志で選び取る候補がいくつか存在するということだとアズサさんは言う。だから負けるという選択肢、という言葉自体がおかしいだろう、と。
「息子もやはり、『気分だよ。負けるという選択肢はないと言い切ることで、勝とうという気持ちが盛り上がるわけ』と言うんだけど、理解不能です。明確な理由はないんでしょうね」
「エグチ」って?
息子の彼女が遊びに来たとき話していたら、彼女がしきりに「それってエグチ」と言うので、つい気になったアズサさん、「エグいと何かが合体した言葉?」と尋ねた。「そうです。エグいとガチが一緒になってエグチですと笑って言われました。エグいもガチもよく聞くけど、合体しちゃうんですね。そのあたりは、善し悪しはともかく若者のセンスなんだろうなと感心します」
「えぐい」はもともとは食べ物などでアクが強い「えぐみ」から来ているとか、「えぐる」が語源だとかの説がある。「ガチ」は相撲でいう「ガチンコ勝負」が語源で、八百長などのない真剣勝負のこと。エグチとは、とても強烈だったり本気度が高かったりすることを表すという。
「夫は、『商談なんかのときに、若いヤツが取引先に、それってエグチっすよねなんて言っているのを聞くと、ちょっとムッとするんだよなあ。オレも年とったということかもしれないけど』と苦笑していたことがありました。かといって、『オッサンがそういう言葉は使えないしな』って。ビジネスの場で使っていい言葉かどうかだけは把握しておいた方がいいかもしれませんね」
流行語に対処できなくなったとき、人は時代に取り残されていると感じるのではないだろうか。とはいえ、仕事の場ではそれなりに雰囲気を重視する傾向がある。流行語を駆使することでビジネスで成功するとは思えない。
オンとオフで言葉をうまく使い分けられるかどうかが、「大人」かどうかの分かれ目かもしれない。








