大ざっぱに作られた「大人の炎上狙い」動画につきあわされる少女が、楽しそうに見えないし、27歳の継父が「うちはいつもこんな感じなんで」というのも心からの笑顔には見えない。そもそも素人の家族動画である。演じようとしても演じきれないし、動画のそこここに見え隠れする「家庭の雰囲気」が、ほんわかとはしていないように見えてしまう。
他人の家庭のことだから干渉するなと言われればそれまでだが、未成年でタレントでもない子どもの顔をさらす行為そのものが、もはや虐待とも言えるのではないだろうか。ちなみにこの夫婦、YouTubeでの活動はしばらく中止にすることにしたと発表した。
子どもは親の顔色をうかがう
実際に母の再婚によって継父と暮らすことになった経験のあるミドリさん(39歳)は、「母と妹と私の女所帯に、知らない男性が入ってくるのがすごく嫌だった」と当時を振り返る。ミドリさんは10歳、妹は4歳、母は36歳だった。継父は母より5歳年下で初婚。いきなり2人の女の子の父親になったことに戸惑っているように見えた。
「父親であらねばならぬと思ったんでしょうか。やたらと厳しかったですね。心の距離は離れたまま、命令だけしてくる感じ。私は嫌だったから、すぐに継父とは口をきかなくなりました。でも母が『あの人、悪い人じゃないよ。ミドリのお父さんになるって言ってくれたんだよ』と説得してくるんです。両親が離婚したのは私が6歳のころだったから、私は父を覚えている。私にとって父はいい人でした。つい継父と比べていた。だから母の説得については、気持ちは分かるし母の味方でいたいと思いつつ、継父に嫌悪感を覚える自分がいけない子なのではないかという葛藤も抱えていた。当時は、そういう気持ちを言葉で説明できなかったから、とても苦しかったのを覚えています」
妹は実父をほとんど覚えていなかったし、継父も妹の方が扱いやすかったのだろう。ミドリさんは4人家族の中で、1人だけ浮いていると感じていた。
忘れられない屈辱的な体験
1年後、ミドリさんに初潮があった。学校にいるときだったので、トイレに寄ってからそのまま保健室に行き、具体的な手当の方法を聞いて実践した。帰宅したとき、フルタイムで働いていた母はまだいなかったが、アルバイトをしていた継父は夕方には帰宅した。「母が帰ってきてから、こっそり初潮の件を伝えたら、継父に『ミドリが女の子になったのよー』と大声で言って……。継父はニヤッと笑って『大人になったんだな』と。そのときの状況は、今思いだしても体が震えるほど悔しいし腹立たしい。それ以来、私は母のこともいっさい信用しなくなりました」
継父は、生理についてよく冗談を飛ばした。ミドリさんが生理痛で浮かない顔をしていると、「生理なんでしょ。今、お母さんも生理なんだよ、移るのかもね」とヘラヘラ言ったこともあった。
継父と暮らすストレスに耐えきれず
継父とは口をきかない、家族の団らんからは遠ざかる。なるべくそうしていたミドリさんだが、さらに1年後、継父は「いつのまにか胸が大きくなったなあ」とまぶしそうに彼女を見つめてきた。「私、その瞬間、吐いちゃったんですよ。継父と暮らすことがストレスでたまらなかった。母にもはっきり言いました。こう言われたって。でも母は『親として慣れてないから』と言葉を濁した。それで私、実父に会いに行きました。実父は私の話を聞いてくれ、弁護士同伴で訪ねてきました。娘が嫌な思いをしているのをどう思うのかと、母と継父が叱られていたのを覚えています」
父と暮らしたかったが、父は1年の半分くらいは出張で家にいない。父は「もうちょっと待ってほしい。仕事もきちんと整理して日本にいられるようにするから」と言ってくれた。
「その言葉だけを頼りに生活していました。だけどある日、母が継父を追い出しました。何があったのか分からないけど、たぶん、継父が不適切に妹と身体的接触をしたんだと思う。母はそれを見てしまったようです。私が何を言っても動かなかった母が、現実を目にしてショックを受けたんでしょう。私の言い分も間違っていなかったと、認めたくないことも認めざるを得なくなったんだと思います」
母と継父が離婚した理由
だがそのとき母は妊娠していた。継父を追い出して離婚届にサインをさせてから4カ月後、母は女の子を産んだ。「子どもを産んだとき初めて、母は私に『ごめんね』と一言、謝ったけど、私より妹をちゃんとケアしてと冷たく返したのを覚えています。妹は当時のことを覚えているかどうか分からないけど、あの継父の話はいまだにタブーですね。大人になってから私も妹も母とは疎遠になっています」
彼女も妹も独身だが、互いにどこか遠慮があってそう頻繁には会っていない。継父と母との間の末妹は20代半ばで結婚した。
「子どもにとって親との関係は大きいと思うし、年端のいかない子が『大人のえげつない冗談』や『いきなりの下ネタ』には対応できない。嫌悪感だけが大きくなるんです。母がなぜそれを分かってくれなかったのか……」
あのころの自分を客観的に見られるようになったミドリさんだが、どう考えても「母と継父を許す気持ちにはなれない」そうだ。








