ケアマネ不足がもたらす5つのリスク
まず、介護サービスの司令塔となる「ケアマネジャー」が不足することによって、利用者とその家族にどのような問題が起きるのか、5つのリスクについて解説します。【リスクその1:介護難民の発生】
介護保険サービスを利用するために要介護認定を受けても、その後に担当するケアマネジャーが見つからなかった場合、手続き自体を進めることができません。そして結果的に介護難民になってしまいます。
適切なサービスを受けられないと要介護者の心身の状態が悪化したり、家族の負担が増えてトラブルになったりと、さまざまなリスクが増大します。介護初期の段階でどうしようもない状況に陥る危険性があるわけです。
すでにいろいろな業務でパンク状態の地域包括支援センターは、要支援1から2の比較的介護レベルが軽い人のケアマネジメントをケアマネジャーに委託するケースが多くなっています。しかし、ケアマネジャーが不足しているため業務が委託しにくく、結果として必要な介護サービスを受けられない人が出てきてしまう可能性があるのです。
【リスクその2:ケアマネジメントの質の低下】
利用者1人ひとりに費やす時間が減ってしまった結果、アセスメントやモニタリングといった本来の業務の質が低下するリスクがあります。認知症など医療ニーズの高い利用者の対応には長い時間がかかりますが、こういった人たちに対するサポートが不十分になる可能性が考えられます。
また、「定められている利用者数を超えてサポートすると報酬が減算される」といった制度自体も問題となってくるでしょう。
ケアマネジャーが1カ月に担当できる利用者数には上限があり、それを超えると報酬を下げられてしまいます。この上限は2024年4月の介護保険制度の改定の際に「39人」から「44人」に引き上げられ、44人までは報酬を下げずに担当できるようになりました。
これから先の改定でもおそらく同じような傾向が続き、今後は50~60人に増えるのではないかと言われています。しかし、ケアマネジャー1人当たりの稼働時間を考えると、当然増やせる人数には限界があります。
例えば、1カ月は休みなしでも30日、長い月で31日、短い月では28日です。そこで100人をサポートできるかというと、現実的にありえない話でしょう。
【リスクその3:地域格差の拡大】
都市部と地方部では異なる課題が浮き彫りになっています。
<都市部においての課題>
・高齢者人口が急増しており、ケアマネジャーの数が追いつかない
<地方部における課題>
・ケアマネジャーの人数がもともと少なく、新規参入者の確保も困難
地方の中でも農村や山間部、離島では1人のケアマネジャーが広い範囲をカバーせざるを得ません。移動時間の負担も大きくなります。さらに、この移動時間は報酬の対象とならないため、事業者も経営的に厳しい。なぜならケアマネジャーに遠くまで行ってもらうための交通費などの費用は事業者が持ち出すことになるからです。
例えばケアマネジャーが車に乗って移動した場合、ガソリン代の支給は事業者が行います。事業者側としても赤字幅が大きくなりやすいのです。
【リスクその4:家族の介護負担の増加】
適切なケアマネジメントが受けられない場合、介護サービスの組み合わせが最適化されません。その結果、家族の介護負担が増えてしまいます。
特に複数の要介護者を同時に介護している場合、こうした問題が起きやすくなるでしょう。両親ともに要介護で、頻繁な通院や治療などが必要といった状況では、家族が調整役を担わざるを得ないケースも増えています。
中には、家族が調整した後にケアマネジャーが異なる調整を行ったりしたことで、予定していたサービスが受けられず、訪問介護やデイサービスなど現場が混乱し、関わっている全員が振り回される事態も発生してしまっています。
【リスクその5:介護離職者の増加】
適切な介護サービスが利用しにくくなると、家族は仕事と介護の両立が困難になります。その結果、介護離職のリスクが高まるでしょう。
介護離職者の増加は個人の経済的損失だけでなく、社会全体の労働力減少にも直結する深刻な問題です。
介護家族が実行すべき5つの対策
こういった中で介護家族が実行すべきことは何か。筆者が考える5つの対策について解説します。【対策その1:早めの情報収集と相談】
介護制度や利用方法をはじめ、家族として何をどこまでやるべきなのか、さまざまな情報を集めて自分なりに考えをまとめておきましょう。
また、なるべく早めに地域包括支援センターへ相談し、地域のケアマネジャーの状況や受け入れ可能な事業所について情報を収集しておくことがとても重要です。
もしもまだ担当ケアマネジャーがいないなら、地域包括支援センターが窓口になります。
介護予防に関する取り組みも行われているので、親が65歳を超えた際には、健康な場合でも地域包括支援センターに足を運んでおきましょう。
【対策その2:サービス提供事業者への直接相談】
担当してくれるケアマネジャーが見つからない場合、利用したい介護サービス事業者に直接連絡して相談に行くのも1つの方法です。
事業者によっては提携しているケアマネジャーを紹介してくれることもあります。比較的大手で複数の事業所を運営している事業者であれば、自社でケアマネジャーを雇用していることも多いです。
ただしその場合、どうしてもその事業者中心のケアプランを組まれてしまいがち。そこでサービス選択の自由度が下がってしまうという現実も知っておきましょう。
【対策その3:身近な支援ネットワークの構築】
地域の民生委員やボランティア、自治会などの地域資源を活用した支援ネットワークを構築しておくことが大事です。
子どもが帰省する際には実家周囲での近所付き合いを積極的に行い、親の見守り依頼と連絡先の交換などを行っておきたいところです。急病やけがといった緊急時の対応や、日常的な見守りなど、公的サービスだけでは対応しきれない部分をカバーしてもらいやすくなります。
これは筆者自身の体験談なのですが、筆者は実家のお隣さんに菓子折りを持って相談に行き、親と離れて暮らしていることや、親の状態について伝えました。
そのうえで、「少し心配なので、分かる範囲で結構なのですが、普段の様子を見てもらえませんか」「ゴミ捨て場にゴミを持って行くのが本人たちにとってかなりつらいようなので、ゴミは分別して家の前に置いておきます。申し訳ないのですが、集積所まで持って行ってもらうことはできませんか」といったことをお願いしました。
その後も実家に帰るたびに、ちょっとしたお土産と共に近況を確認に行っていました。お隣さんはすごく意気に感じてくれて、筆者の親の状況を手厚くチェックしてくださっていたのを覚えています。
すべての隣人が親切とは限りませんが、いろいろな人に相談し、少しでも味方を増やしていくことは考えてもいいのではないでしょうか。
【対策その4:介護保険外サービスの活用】
家事代行サービスや自宅にお弁当を届けてくれる配食サービス、見守りサービスといった介護保険外のサービスを利用することで、ケアマネ不足による影響をある程度抑えることができます。
特におすすめしたいのはシルバー人材センターの活用です。
65歳以上の元気なシニアが1時間当たり1000~1500円程度で買い物や通院の付き添い、衣替え、庭の草むしり、犬の散歩など介護保険の範囲を超えた軽めの作業を代行してくれます。
シルバー人材センターは全国に拠点があるので、調べてみるといいでしょう。
【対策その5:ICTツールの積極的な活用】
スマートフォンやタブレットなどを活用して介護情報の収集、オンライン相談などを利用することも大事です。
LINEグループなどを使ってきょうだいと情報を共有する、ネット銀行で介護費用の管理をする、などもおすすめです。
両親のマイナポータルに代理人登録をしておくと、通院履歴や処方情報が確認できる医療機関も増えているので、これもおすすめしておきたいです。
都会と比べて情報量が少なく、相談窓口も限られている地方暮らしの場合、特にICTツール活用のメリットは大きいでしょう。
深刻なケアマネ不足にどう対応するのか
在宅介護を行う際の最大の相談相手であるケアマネジャーが、多忙を理由に話を聞いてくれなくなると深刻な影響があります。さらに担当ケアマネジャー自体が決まらない状況になってしまうと、介護保険サービスを利用することもままならなくなってしまいます。
【すでに担当者がいる場合】
サービスの利用実績を積み上げながら、良好な関係を作っていきましょう。
ケアマネジャーにとって利用者は客です。自分の会社が提供する介護サービスをなるべく利用してほしいのが本音でしょう。介護サービスを可能な範囲で利用しながら、互いにメリットのある関係を構築していくと、ケアマネジャーも手厚くサポートしやすくなります。
逆に相性の合わないケアマネジャーが現在担当としてついている場合は、少しでも早めに別の人にチェンジしておきましょう。先延ばしにしていると代わりが見つからない可能性があります。早めに切り替え、新しい関係を作っておきたいところです。
【自助・共助でできる範囲はなるべく家族中心で賄う】
「自助」は本人や家族のサポートで成り立つことで、「共助」は隣近所などその地域としてできる範囲のことです。こういった部分はケアマネジャーや公的なものに頼らずに、自分たちで行っていくことも必要になってくるでしょう。
ただし無理は禁物です。ケアマネジャーに無理難題を押し付け過ぎるのはよくありませんが、遠慮し過ぎて介護家族が疲弊してしまっては本末転倒。状況に応じてバランスを取ることが大切です。








