人間関係

高市首相の「ワーク・ライフ・バランス捨てる」に疑問。“捨てざるを得ない”女性の嘆きとは

高市早苗首相の「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」発言が賛否を呼んだ。だが、どんなに働いても楽にならず「WLBなんてとっくに捨てた」人たちがいるのが実態だ。問題は、目に見えて広がっている経済的格差だ。※サムネイル画像:PIXTA

亀山 早苗

亀山 早苗

恋愛 ガイド

どうして男女は愛し合うのか、どうして憎み合うのか。出会わなくていい人と出会ってしまい、うまくいきたい人とうまくいかない……。独身同士の恋愛、結婚、婚外恋愛など、日々、取材を重ねつつ男女関係のことを記事や本に書きつづっている。

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ワーク・ライフ・バランス、とれていますか?(画像:PIXTA)

ワーク・ライフ・バランス、とれていますか?(画像:PIXTA)

「私自身もワーク・ライフ・バランス(WLB)という言葉を捨てる。働いて、働いて、働いて、働いて、働いていく」

自民党初の女性総裁となった高市早苗氏はそう宣言し、世間を震撼(しんかん)とさせた。

「WLBを捨てる」発言は不穏当

「仕事と生活の調和」は、かつて労働時間が長く、過労死が問題となった日本では重要な課題となってきた。労働時間が長いと私生活がないがしろにされがちで、結果、恋愛や結婚に悪影響が出たり、家族と過ごす時間が減ったりする。少子化対策には逆行するのだ。もちろん、フルタイムであっても収入が低く、副業をせざるを得ない人もいる。健康的にも問題が大きすぎる。

そんな中での高市氏の発言に多くの人が首をかしげた。本人が「必死に働く」と宣言する分にはかまわないが、WLBを捨てるというのは言い過ぎだろう。

かつて「24時間戦えますか」というCMがあった。1989年の自由国民社・第6回新語・流行語大賞で流行語部門・銅賞を受賞している。当時はバブル絶頂期、誰もが働きまくって遊びまくった。経済は回り、街は深夜になってもタクシーが拾えないほど混雑していた。

と同時に過労死という言葉が浮上してきた時期でもあった。過労死する人が年間1万人とも言われた。

バブル崩壊と共に失われた30年が到来するのだが、今や長時間労働させるのはブラック企業と認定されるようになっている。

そんな中での国のトップの「WLBを捨てる」発言は不穏当と言われてもしかたないだろう。

どんなに働いても楽にならない

「夫婦で介護職ですが、夫は常勤、私はパートです。世帯収入は500万いくかどうか。夫は夜勤も多いし、そういうときは7歳と5歳の子の世話は私一人でやらなくてはいけない。しかも同じ敷地内に義父母もいて、ある程度の世話は必要です。私自身が仕事としてやっている介護のほかに、義父母の介護は無料でやらざるを得ないわけで……。時々、家族のためだけに働いている自分は何だろうと思うことがあります」

セイコさん(40歳)は、疲れた表情でそう言う。介護職の収入は地域によってもかなり違いがあるが、彼女の住む地域は首都圏よりずっと低い。

「正直言って、WLBなんて、とっくに捨てざるを得ない状況です。働くことにやりがいを感じるからではなく、生活がすべて子育てと介護になっているから。仕事を変えればいいと思われるかもしれないけど、人手不足の職場を考えると、そう簡単に転職もできません」

そうやって頑張ってしまう人に頼るしかないのが、介護という現場の状態なのかもしれないが、これは介護に限ったものでもないだろう。

正規・非正規、地域、年齢による格差も

今年9月26日に公表された国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、民間で働く人の平均年収は478万円で過去最高となったという。だが、正社員の平均545万円に対し、非正規社員では206万円と大きな格差がある。また、正社員では男性が609万円、女性が430万円と大きな差がある。非正規においても男性271万円、女性174万円と格差が埋まらないし、地域差、年齢差も大きいという。

一部富裕層の影響で平均値は上がっているが、より実態に近い年収を示す中央値では正社員全体で380万となる。

「確かにこれが実態だと思う」

セイコさんはそう言う。この収入で、これからの子どもたちの学費や生活を考えると、時々頭がくらくらしてくるそうだ。

「文化的な生活」なんて無理

「義父母もたいして資産がありませんし、今後、本格的に介護が必要となると、さらにお金がかかる。いざとなったら私が仕事を離れることも考えなければいけないかもしれないと思っています。義父母たちも『私たちにはお金を使わないように』と言ってるけど、病気だ介護だとなれば見捨てるわけにはいきません」

日本国憲法第二十五条は、「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定している。これは国民には生存権があり、国家には生活保障の義務があるという意味だ。

セイコさんは「文化的な生活なんてできない」とつぶやく。食べることと働くこと、子どもを育てることで手一杯、買いたい本があっても図書館で順番待ちして借りることしかできない。

「食べるのに困るほど貧乏かと言われれば、そうではないと思うけど、規定される文化的生活は送れない。そういう人が多いんじゃないでしょうか。中流以下がそこから抜け出せない状態になっていると実感しています」

経済的格差が、じわじわと目に見えて広がっていっている。そんな恐怖感があると彼女は言った。

<参考>
・「令和6年分 民間給与実態統計調査」(国税庁)
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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