若手は優秀なのにと嘆く夫
共働きの夫はよく、「今年の新入社員は優秀なんだ」と話すとリサさん(40歳)は言う。毎年春はそう言っているのに、夏あたりにはトーンダウンする。「ここ数年、特に嘆いていますね。優秀だから、面談すると目標設定も高く、そこに向かって努力する姿勢は評価できる。でも自ら現場に足を運ぶことはしない。情報は全てネットから。それがなんだか歯がゆいんだよなあって」
それは、リサさん自身も職場で感じていることだという。若いんだから、もうちょっと外へ出て、人と話して情報をもぎとってこいと言いたくなることが多々あるそうだ。夫とは業種も職種も違うのに、そういう点では一致するらしい。
「ただ、そういうことも言いづらい空気があります。どうやって情報を得ようと、それは人それぞれだから。ただ、私はよく後輩たちに、現場へ行けとは言いますね。陰で『めんどくさい人』と呼ばれているのは分かってる。後輩にしてみると、現場に行くことでかえって軋轢(あつれき)や衝突が生じることもあるからって。でもそれを衝突と感じずに、情報交換、現場からの貴重な声と聞けば対処が変わっていくはず……。仕事全体、会社全体をよくしていくという意識があまりないのかもしれませんね」
指示待ちの若手にため息
夫は先日、「ある若手に仕事全体の流れを説明して、関連する数種類の書類作成を頼んだ。彼はそれを前回もやっている。それなのに、1つ終わると次に移るのにいちいち指示待ちなんだよなあ」とため息をついた。聞きにくるならまだいい。だが彼はじっとしていて、次はこれをやってと言われるまで待っているのだそう。
「黙って待っていたら、きみたちの言うところのタイパもコスパも悪いでしょと夫が皮肉を言ったら、『でもお忙しそうだったので』と返ってきたそうです。皮肉を皮肉と感じない素直さがいいのか悪いのか……。上司の行動を見ながら遠慮しているんでしょうけど、そういうのって頼んだ方からするとイラッとしますよね」
分かるわあと言いながら、リサさんはふと夫の言動を振り返った。
夫こそ、指示待ちだった
仕事では夫は後輩たちを指導したり仕事を振り分けたりする立場だから、ついつい彼らの短所に目が向くのだろう。「でも考えたら、うちの夫、家では典型的な“指示待ち”なんですよね。気が付いたので、思わず笑っちゃいました」
リサさんの夫は、自らどんどん家事をこなすタイプではない。頼めばやってくれるが、リサさんが満足したことはないという。お皿を洗ってといえば、皿だけ洗って鍋は洗わない、しかも洗った皿を拭かない。皿を洗った時点で“指示”を待っている。
「一連の行動じゃないですか。いつも私がやっていることだし、夫だって初めてやるわけじゃない。それなのに、どうしてそこで“指示待ち”になっちゃうのということが多すぎる。会社では偉そうにしていても、家庭内では役に立ってないんですよね」
子どもの世話を夫に頼んだら……
つい先日も、リサさんが残業になってしまったため、定時で帰れた夫に、10歳と7歳の子どもたちの世話を頼んだ。「夫は料理は得意なので、何か作ってくれてもいいし、冷凍庫に作り置きのハンバーグがあるから焼いてくれてもいいしと言ったら、『大丈夫、まかせとけ』って。その後、不安になって『食事させたら、適当な時間に寝るように言ってよ。あ、その前に歯磨きね』とメッセージを送ると、『そうだった』と返信。さらに不安になったんですが、私も忙しかったので、とにかく残業を片づけて21時半頃に帰宅したんです」
すると本来、21時には寝るはずの子どもたちがまだ起きている。しかもお風呂にも入っていないという。
「寝かせようとしたんだけど寝なくてさと夫が言うんですが、聞いてみたら夕食後に3人でずっとテレビを見ていたと。夫が何を言うかと思ったら、『だってきみがお風呂に入れろって言ってこないからさ』って。はあ? って感じですよね。日常生活がどう流れていくかも把握してないわけ、と思わず声が尖りました」
苦笑するしかない
休日前ならともかく、学校がある平日は極力、不規則にならないよう、リサさんは気を付けている。それが夫に託すとこんなことになってしまうとがっくりきた。日ごろの私の努力が水の泡だとリサさんは怒った。「そんなに怒るなよ、大丈夫だよ、子どもは案外強いんだからと夫。強い弱いの話をしているわけじゃないんですよね。自分のミスは棚に上げるなんて、あなたの会社の若手よりずっとタチが悪いわと言ってしまいました」
夫もさすがにムッとしたのか、そこから数日間、険悪な空気だったという。子どもの生活リズムを作るのは大変だが、壊れるのは一瞬。それが分かっているから、リサさんは日々、努力を重ねているのだ。
「指示待ち夫に、自分でものを考えるようにさせるにはどうしたらいいのか……。何年たっても分かってもらえないんだから、職場の若手をあれこれ言う筋合いじゃないですよね」
最後は苦笑するしかないといった感じだった。








