住宅ジャーナリストの山下和之氏に、平均的な年収の世帯が無理なく購入できるラインを試算してもらいました。
マンション購入は、借りられる額ではなく、無理なく返せる額を考える
マンションの購入予算を考えるとき、多くの方はまず銀行が示す「借入可能額」を基準にしがちです。金融機関では、住宅ローンの年間返済額は年収の35%以内が目安とされています。しかし、年収が高い方ならまだしも、年収500万円程度の世帯で年収の35%を返済に回すのは、かなり厳しいといえるでしょう。
これは、年収478万円の方であれば、年間約167万円(月約14万円)の返済を組む計算になります。一般的な手取りの目安として、ボーナスなし・扶養ありの場合、年収478万円だと手取り月収は30万円前後でしょうから、収入の半分近くを返済にあてることになります。
こうなると、貯蓄に回せるお金が少なくなり、余裕のない家計になってしまいます。特に、お子さまの成長にともなう教育費や、病気・休職で収入が減るような予期せぬリスクが生じた場合、生活が一気に立ち行かなくなります。
大切なのは、銀行が教えてくれる「借りられる額」ではなく、将来への備えを残しながら「無理なく返せる額」で考えることです。
無理のないローンは、返済負担率25%まで
私がよく言っているのは、「年収500万円ほどであれば、返済負担率は25%程度にしましょう」ということです。実際、住宅金融支援機構「フラット35利用者調査」を見ても、返済負担率の平均は20~25%となっています。年収478万円の場合:
年間返済上限が35%の場合:167万3000円(月々の返済額:約14万円)
年間返済上限が25%の場合:119万5000円(月々の返済額:約10万円)
年収500万円の方なら、月10万円前後の返済が無理のないラインといえそうです。この条件でローンを組むと、借入可能額は約3500万円になります。
※具体的なシミュレーションは次の通りです。ご自身の年収をこの計算式に当てて、シミュレーションしてみましょう。
●年収478万円世帯の借入可能額シミュレーション
年収:478万円
安全な返済負担率:25%
年間返済額の上限:478万円×25%=119万5000円
月々の返済額の上限:119万5000円÷12カ月=約9万9600円
この約9万9600円の返済額で組める住宅ローン(変動金利0.6%、35年返済を想定)は、約3520万円となります。
さらに、自己資金として500万円を用意できれば、4000万円前後の住まいが手の届く範囲といえるでしょう。
平均年収なら新築23区内は難しく、中古マンションが現実的
ここで直面するのが住宅市場とのギャップです。現在、首都圏の新築マンション価格は高騰しており、東京23区内の平均価格は約1億3000万円に迫っています(※)。自己資金500万円を加えて約4000万円の予算では、23区内の新築マンションを購入するのは極めて困難です。
この予算でマイホームの夢を実現するには、新築ではなく中古マンションへのシフトが極めて重要になります。築30年以上の中古マンションであれば、新築の3分の1程度で購入できる物件も珍しくありません。エリアによって差はありますが、郊外や地方都市では選択肢が広がります。
参考
令和6年分 民間給与実態統計調査(国税庁)
2024年度 フラット35利用者調査(住宅金融支援機構)
※不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」2025年度上半期
教えてくれたのは……山下 和之氏(住宅ジャーナリスト)
住宅・不動産ジャーナリスト。新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトなどでの執筆・取材、セミナー講演、メディア出演など幅広く活動。著書に『よくわかる不動産業界』『「家を買う。」その前に知っておきたいこと』(いずれも日本実業出版社)、『マイホーム購入 トクする資金プランと税金対策』(学研プラス)、『2017-2018年度版 住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)など。






