人間関係

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』が描く「男の気付き」が話題。“昭和脳”を捨てた男たち

ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』で、「昭和脳」の主人公が反省し、成長する姿が共感を呼んでいる。根強く残る、男女の役割分担意識から解放された男たちの姿とは。※サムネイル画像:『じゃあ、あんたが作ってみろよ』公式Instagramより

亀山 早苗

亀山 早苗

恋愛 ガイド

どうして男女は愛し合うのか、どうして憎み合うのか。出会わなくていい人と出会ってしまい、うまくいきたい人とうまくいかない……。独身同士の恋愛、結婚、婚外恋愛など、日々、取材を重ねつつ男女関係のことを記事や本に書きつづっている。

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ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)が話題だ。なにげなく観てみたら、軽妙なリズム感あるドラマなのに、登場人物たちの「気付き」があちこちにちりばめられていて、観ていて「人の価値観が変わっていく」快感がある。

従来の男女の役割に縛られていた「昭和脳」の男と、男ウケを狙って自分の本音を出せなかった女が、別れることでそれぞれ新たな自分を見いだしていくのだ。軸になるのは「料理」だ。彼女が作ってくれる料理に、つい「全体的に茶色いよね。彩りを考えるといいかも」とダメ出しをしていた男だが、自分がマッチングアプリで知り合った女性を招いて前日から仕込んだおでんをふるまったとき、「おでんなんてコンビニで買えるじゃん」「料亭のおでんには負けるけど」と言われて我が身を振り返る。そこから彼は、本格的に自分の価値観を見つめ直すことになるのだ。
誰にでも「思い込み」はある。無意識のバイアスもかかる。自分があらゆる価値観から解き放たれていると思っていても、そこには子どものころから培われた「親や学校や社会や友達から植えつけられた」価値観が関わっている。

そう簡単に自分の価値観など作れないし、アップデートと軽く言っても、なかなかできるものではない。なかなかできないと思ってちょうどいいくらいなのかもしれないし、最低限の相手へのリスペクトがあれば、少しずつ知り合うことで、理解はできなくても認め合うことができる可能性はある。

夫との大ゲンカで、互いを少し知った日

「先日、夫と結婚以来、初めての大ゲンカをしたんです。私は親がケンカばかりしていた家庭で育ったので、夫と揉めるのが嫌だった。揉めるくらいなら私が譲った方が楽。そう思ってやってきたんですが」

サトミさん(44歳)は、同い年の夫と13歳、9歳の子どもたちと仲のいい家庭を築いてきた。彼女の優先順位は「とにかく揉めないこと」だったという。だが先日、彼女の親友が離婚した。夫も親友のことを知っている。それなのに夫が親友をバカにするような発言をしたのだ。

「これには私、爆発してしまいました。彼女は私が昔、失恋したときも、大好きな祖母が亡くなったときもいつもそばにいてくれた。夫には言えないけど、独身時代、妻子持ちの男性に手ひどく捨てられたときなんて、彼女、彼の会社に怒鳴り込みに行ってくれたんですよ。私が今、元気でいられるのは彼女のおかげ。それなのに彼女が離婚したとき、夫は『性格悪いんじゃないの』『気が強いもんなあ、あれじゃ夫はやってられないって思うかも』って。離婚したのは彼女の夫の女性関係だけど、それは彼女が原因じゃないんです。彼女の夫は女癖が悪くて、会社でもセクハラで問題になっていた。それを知らずに、離婚したというだけで女性が悪いと思い込んでいる夫に腹が立った」

見て見ぬふりはもうできない

私の友達を侮辱するのは許せないと、サトミさんは夫に食ってかかった。友人のために本気で怒った妻に、夫はびっくりしたようだった。冗談だよ、一般論だよと逃げ腰になったが、サトミさんは許さなかった。

「あなたの発言には、女を見下しているところがある。女は男についていけばいいんだと思っている節がある。勢いでそう言ってしまいました。私がわめいたので部屋から出てきた中学1年の娘が、『この前、私がテストでクラスで1番の成績をとったとき、お父さんは女の子が勉強できてもなあって言ったよね。あれ、私、ひっかかってる』と発言。それを聞いた私はさらにヒートアップしてしまった」

成績さえよければいいとは思っていない。だが本人が努力した結果に対して、「女の子が」という言い方はないだろうとサトミさんはムッとしたのだ。そういえば些細なことではあるが、時々夫の言い方には、女性を下に見ている気配があった。見て見ぬふりをしていた方が揉めなくてすむから、何も言わなかっただけだったと彼女は気付いた。

自分の非を認めた夫

妻と娘の言い分に、最初、夫は「いいがかりだ」と怒っていた。途中からは「おまえたちは、オレに盾突くのか」と怒鳴り、「そういう発言が問題なのよ」とサトミさんは怒鳴り返した。

「それからほぼ3日間、私も娘も夫とは口をきかなかった。9歳の長男は戸惑っていたと思いますが、私は夫を許したくなかった。ここでいつものようにまあいいやと流していたら、一生後悔すると思ったんです」

ある日、夫が「この前はごめん」とサトミさんと娘に謝ってきた。だがサトミさんは、何を謝っているのか話したいとさらに深く掘り下げた。自分の気持ちの中に、「女子どもは男が守るものだという気持ちがある。それが守るというよりは、オレの言うことを聞けという方向になっていた」と夫は素直に認めた。男であるだけでエラいと思っているのかとサトミさんが尋ねると、そうかもしれないと夫はつぶやいた。

変わろうよ、みんなで

「そこで初めて、変わろうよ、みんなでと私が言ったんです。これからの時代を生きる子どもたちがいるんだから、私たち夫婦も変わろうよと。私も言い方に気をつけはするけど、これからはなるべく本音を言う、だからあなたは聞く耳を持ってほしいと」

何もかもがいっぺんに変わっていくわけではない。ただ、サトミさんは「夫が思っているであろう自分」を演出するのはやめた。前だったらこうしていたなと思いつつ、今は夫に何か頼まれても「今はできない」「それはあなたがやった方がいい」と言うようになった。気になることは話し合おうと言うようにしている。

「なんとなく風通しがいい雰囲気にはなってきたと思います。夫にも家事を頼むことにしたんですが、『悪い。今日はどうしても疲れていてできない』『それは明日やる。ごめん』と正直に言うようになった。生返事でごまかせないと分かったんでしょう」

ゆるゆるとではあるが、変わろうと思えば変われる。サトミさんはその確信を強めているところだ。
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