
頑張って減塩しているのに血圧が下がらない……その原因は意外な生活習慣にあるかもしれません
「塩分を減らせば、血圧は下がる」というのは、多くの人が知っている健康知識です。
しかし、実際の診療現場では「減塩しているのに血圧が下がらない」という方が少なくありません。その理由の1つが、生活リズムによる自律神経の乱れです。今、医師として「睡眠習慣」に注目しています。血圧と睡眠の意外な関係について、内科医の立場から分かりやすくお話しします。
減塩しても血圧が下がらないのは「睡眠不足」が原因の可能性も
睡眠時間が短くなると、体を緊張状態に保つ「交感神経(いわゆる“戦う神経”)」が優位になります。血管が縮み、心拍数が上がり、体が“戦闘モード”のまま持続してしまう状態です。その結果、血圧は高止まりしてしまいます。実際、睡眠時間が短い人では高血圧のリスクが1.2~1.5倍程度高いと報告されています。特に、睡眠時無呼吸などで「実際の睡眠時間が短い」人では、この関連がより強く現れることが分かっています(※1)。「少しくらい寝不足でも大丈夫」と思っている方ほど、注意が必要です。
夜更かしが「隠れ高血圧」を招く!? 命にも関わる「仮面高血圧」のリスク
意外に多いのが、病院で血圧を測ると正常なのに、家庭で測ると血圧が高いタイプの方です。このような状態は「仮面高血圧」と呼ばれます。夜更かしや、寝る前のスマートフォン使用によるブルーライトの刺激が続くと、脳が覚醒してしまいます。体は眠っているつもりでも、神経が休めなくなるのです。その結果、体を活動モードにさせる交感神経が夜間も働き続け、血管が収縮することで、夜間も血圧が下がらない状態になってしまいます。
こうした「夜間高血圧」は、脳卒中や心筋梗塞など命に関わる病気のリスクを高めることも知られており、十分な注意が必要です(※2)。血圧を下げる第一歩は、夜にしっかりと「血圧を休ませる」こと。つまり、睡眠の質を整えることが最も自然な降圧ケアなのです。
睡眠中に血圧が整う「血圧を下げる眠り方」3つのポイント
睡眠は「量」だけでなく「質」も重要です。次の3つを意識することで、毎日の眠りの時間をそのまま「血圧を整える時間」に変えることができます。1. 就寝1時間前はスマホを見ない
スマホやパソコンの光は脳を刺激し、眠りを浅くします。光刺激を避けることで、眠りを誘うホルモン「メラトニン」が分泌され、血圧も自然に下がっていきます。
2. 夕食は寝る3時間前までに済ませる
満腹のまま眠ると、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、血圧が下がりにくくなります。夕食は早めに済ませ、寝る前は軽く温かい飲み物程度にしておきましょう。
3. 眠る前は「ぬるめの入浴」でリラックスする
40℃前後のお湯に10分ほど浸かると、血管が広がり、体も心もリラックスします。お風呂から上がって30分ほどたつ頃は、体温がゆるやかに下がり始め、最も寝つきやすくなるタイミングです。
これら3つを続けるだけでも、翌朝の血圧が改善する人は少なくありません。
「減塩と睡眠」で発揮できる降圧効果……よい睡眠は最高の降圧薬
血圧を安定させるには、食事・運動・睡眠の3つのバランスが欠かせません。特に睡眠は、これまで軽視されがちでしたが、体のリズムを整える「第3の柱」です。「頑張って減塩しているのに血圧が下がらない」「薬を飲んでも朝の血圧が高い気がする」そんな方ほど、眠りの質を見直す価値があります。
よい睡眠時間は、体を休められるだけでなく、血圧をリセットできる時間にもなります。
今日からできることは、決して難しいことではありません。就寝前のスマホをやめ、入浴時間を少し早める。それだけでも体は変わり始めます。「よく眠ること」が、最高の降圧薬になる。そう感じられる日は、遠くないはずです。
生活習慣病の診療を通して感じるのは、「数字を下げること」よりも、「人生を整えること」の大切さです。
血圧は、生活そのものの「鏡」のようなもの。毎日のリズムを少しずつ整えていくことが、薬以上の力を発揮することがあります。ぜひ、血圧計の数字だけでなく、あなたの「生活リズム」にも耳を傾けてみてください。
■参考文献
※1 Hypertension Volume 72, Number 3:https://doi.org/10.1161/HYPERTENSIONAHA.118.11027
※2 American Journal of Hypertension, Volume 13, Issue 12, December 2000, Pages 1250–1255