キャッシュレスでの支払いが増えたことでカードで散財してしまうこともあれば、かえって金銭管理がうまくいくようになる人もいて、それぞれ使いようであることは確かだ。どこまで「時代」に合わせるか、どこまで自分を貫くかはそれぞれの事情によるのかもしれない。
周囲に迷惑がかかることも
「ママ友との連絡、子どもの学校の保護者関係の連絡は今やLINEです。でもLINEを拒否するママもいるんですよ、これが面倒で」マキさん(43歳)はため息をついた。中学生と小学生の二人の子が通う学校の保護者会の連絡は、それぞれLINEが基本となっているのだが、上の子のクラスでも、下の子のクラスでも、一人二人はLINE登録を拒否する親たちがいる。その場合は責任者がメールや電話で知らせることになっており、今はマキさんがその担当だ。
「一斉にLINEを送ったあとで、その人たちに個別で連絡するんですが、メールならまだしも電話、しかも固定電話という人がいて、これがやっかい。留守電はついていますが、聞いてくれたかどうか確認のためにまた電話しなくてはいけなくて。私も仕事をしていますし、うっかり忘れることもあって。そうしたら『じゃあ、次からFAXにしてください』って。FAXなんてもっと面倒。笑うしかありませんでした」
時代に「取り残される」事態にも
人に迷惑をかけるくらいなら、便利なツールを導入した方がいいんじゃないかとマキさんは思うが、その価値観を押しつけるわけにもいかないと言う。「でも私も人のことは言えないんですよね。うちの夫、いまだにスマホをもっていないんです。『オレは一生、ガラケーでいい』と。ただ、さすがに最近は変えようかなと言い出しました。というのも夫は自営業なので、スタッフとの連絡が必要ですし、みんなで共有しなければならない事態もある。私も経理や総務の仕事をしていますが、さすがに現場の連絡の代理はできない。仕事に支障が出かねないので、夫も気持ちが変わってきているようです」
時代によってツールは変化する。取り入れなければ「取り残される」事態も考えられる。
キャッシュレスの落とし穴
キャッシュレスは便利だし、何でもひも付けておけばいいと考えていると思わぬ落とし穴も出てくる。「私はSuica機能をひもづけてあるApple Watchを使っているんですが、バスに乗ったときかざしてもピッと鳴らない。ふと見たら、うっかりWatchの電池が切れていて……。現金も数十円しかなくて、あたふた言い訳しながらバスを降りました」
そう言って苦笑するサクラさん(44歳)。あわてて銀行へ行ってお金をおろしたという。本人の側にそういう問題が起こることもあるし、機械の故障で「現金のみ」となる場合もあるため、やはり現金をもつ必要はありそうだ。
「スマホだけもってランチに出かけたら、いつもの店が機械の故障で現金のみ。でもその日はスケジュールがタイトで、会社に戻って財布をもってくる時間はない。ふと見たら、いつもは苦手にしている同僚がすでにランチをとっていて……。目配せされたので近寄っていったら『現金、貸すよ』と。借りを作りたくないと思ったけど、けっこうとも言い切れず、仕方なく借りました。ついでに他のテーブルもいっぱいだったから同席して、いろいろ話していたら、なんとなく互いに勝手に苦手だと思っていただけということが分かって……。今では時々一緒にランチをする仲です。それはそれでよかったけど」
アナログのよさも
アナログなところには人間同士のやりとりが生まれるのかもしれない。「そういえば先日、旅行先で小さな鉄道に乗ったとき、いざ払う段になったら10円足りなかったんです。おつりを必要とする場合は、最後に降りないと並んでいる人たちに迷惑がかかる。でもその日は観光客が多くて、全ての乗客が降りるのを待っているのはつらいなと思っていたんです。一緒にいた友人グループに『10円足りない。誰か貸して』と思わず声をかけました。あとからみんなで『10円貸して、なんていうやりとりは久々だよね』『でもこういうやりとり楽しいね』って。確かにそうだなと思いました」
全てをアナログにこだわり続けるのは時代的に難しいし、「変な人」になりかねないが、たまにはアナログを楽しむのも悪くはない。今はそう感じている人たちが多いのかもしれない。