『部下からの逆パワハラで“もう無理”と思ったときに読む本 悩める上司への処方箋』(加藤京子著)では、モンスター社員の部下から「逆パワハラ」を受けた上司が抱くネガティブな感情の正体について解説しています。
今回は本書から一部抜粋し、上司が抱く感情の種類と、自分自身の感情を大切にすることの重要性について紹介します。
モンスター社員に攻撃されたときの感情を知る
モンスター社員の口調や表現は、挑発的かつ生意気です。あなたの指示を無視したり、自分の意見が正しいと主張したりします。意図的にあなたに恥をかかせるべく、権威を失墜させようとするのですから、そのときのあなたの気持ちは穏やかではないでしょう。総じて、上司は「傾聴・共感」が大切だと言われます。よくわかります。でも、モンスター社員からの攻撃を受けながら苦悩にあえぐあなたの気持ちには誰が向き合うのでしょう。
モンスター社員と向き合う時は、自分自身の感情に対する「傾聴・共感」のほうがもっと大切です。不快だなと思ったネガティブな感情を「押し殺さないこと」です。「自分の感情を知る」(自分の心の声を聴く、そして共感する)こと、そして、願わくば、この感情を表現できるようになってほしいと思います。
相手に対する不愉快な感情
1. 怒り部下の高圧的な態度や言葉が、上司(あなた)の尊厳や立場を軽視しているように感じられます。
また、礼儀を欠いた態度、生意気な発言や、自分に対する感謝の欠如を感じるときに、怒りが湧き上がります(……と同時に、時として、イライラする自身の「器の小ささ」に落ち込むこともあります)。
2. 驚き・疑念
配慮を欠いた言葉遣いに驚きます。「あり得ない」という感情が溢れます。
今までの自分は、会社や上司に対して、「おかしい」と思ったことがあっても「言わない」ようにしてきた、むしろ、言ってはいけない雰囲気だった。……と昔の自分と比べながら、相手の非礼に怒りと驚きと苦虫を噛み潰した気持ちになります。
3. 苛立ち
部下の発言や態度が、上司を貶めるような意図を含んでいると感じたときに抱きます。たとえば、「前から思っていたんですけど、このチームは方針を変えた方がいいですよ」等、上司の戦略を根本的に否定する発言です。
提案という良質な批判であればよいのですが、相手がわざとあなたを「怒らせよう」とすることもあります。
自分に対するマイナスの感情
1. 恥や劣等感・羞恥心公の場(会議や同僚の前)で部下から屈辱的な発言を受けたとき等、自身の弱点が露呈したときに抱きます。
プライドや権威が傷つけられると同時に、その恥ずかしさを直視できない(惨めな自分を認めたくない)感情が湧き上がります。面目は丸つぶれ、立場や権力を侵食されたと感じます。
2. 無力感・自信喪失
言い返せなかった、状況を変えられなかった、また力を発揮できなかったときに抱く無力感です。自分に価値がないと感じます。
たとえば、ITリテラシーは若者の方が高く、能力・立場の逆転現象が起きていますが、それをあからさまに指摘されると、まるで人格まで否定されたみたいな気持ちになります。
3. 自己否定感、虚しさ
今までの価値観(愚直に頑張ってきたスタンス)が覆されるような気がして、虚しくなります。
「これまでの自分は何だったんだろう」という気持ちがこみ上げ、過去の自分を卑下するようになります。
「確かに昭和の時代は古いかもしれない、今はとても華やかだ」、でも、精一杯自分は頑張ってきた、そんな過去がショボいものとされてしまう侘しさを払拭できません。
4. 自己評価の低下
部下が中心となってグループを形成し、「上司を頼りにしない存在」として位置づけてしまうことがあります。そうなると、「自分が上司としての役割を果たせていないのではないか」という罪悪感に苛まれます。人は罪悪感を抱くと冷静な判断ができなくなります。
また「自分の役割が軽視されている」「または組織内の立場が脅かされている」という自信喪失にもつながります。
5. 恐怖感
たとえば、SNSで批判される等、精神的に追い詰められることがあります。不特定多数に拡散され、自分が良くないことに巻き込まれる、という恐怖を感じます。
同時に「職場全体」が被るリスクを避けたいという心理も働きます。他の部下や社員にまで悪影響を与えるときは、もうどうしたらよいかわかりません。
逆パワハラに悩みがちな上司の性格
なんだか踏んだり蹴ったりですよね。人それぞれに「自分の意志」や「他者への期待」があるわけですからそれが叶えられないときは、当然ながら痛みは伴うはずです。これは、あなた「だけ」が抱くものではありません。あなたが「弱いから」感じるものでもありません。
また、これは日本人の良いところであり、愛おしいところでもあるのですが、こういうことで悩んでしまうタイプの方というのは、とても謙虚で生真面目です。
こんなに打ちひしがれることがあっても、なぜか、自身の落ち度を探してしまいます(逆切れして「パワハラ行為者」になるというのは別次元の話ですが)。加えて、上司は、「問題のないチーム」を維持しなければいけないという職責上のプレッシャーがあります。
特に、日本では「社員の結束」が重視される文化があるため、「部下・仲間を悪く言ってはいけない」という価値観が根強く残っています。
【加藤 京子(かとう・きょうこ)プロフィール】
H・Rサポート、株式会社クレドコラ(credocara)代表。青山学院大学文学部フランス文学科卒業後、日商岩井株式会社(現・双日株式会社)入社。1998年に社会保険労務士資格取得、2000年に独立開業~現在H・Rサポート(港区西新橋にて社会保険労務士事務所経営)、2004年には研修講師として活動開始し、管理職選抜・昇格審査事業の一環として、部下育成の相談(面談)を受託。年間約100日(20年間)、約2万人対応。現在、研修講師および人材アセスメントのチーフコンサルタントとして活動中。著書に『Z世代に嫌われる上司 嫌われない上司』(ぱる出版)がある。