頭の痛い問題
近年、日本企業が海外市場へ進出する流れは加速しているが、現地駐在員の数自体は減少傾向にあるという。海外駐在員を置くためのコストの高さが一因であるが、ほかにも、例えばシンガポールのように労働ビザが取得しにくくなった国もあったり、ローカル化が進んだため現地で採用する社員だけで経営していたりするケースもある。加えて、頭の痛い事例もある。それは、日本から派遣した海外駐在員のパフォーマンスが期待に及ばないという問題だ。特に高い給料やよいポストで赴任させたものの、経験やスキル不足であるばかりか、現地事情もよく理解せず、英語も苦手で周りにうまくなじめない日本からの海外駐在員を受け入れることは、現地で働くローカル社員たちにとって負担が大きい。場合によっては、任期の途中で海外駐在員を帰国させたり、退職に至ることもある。
日本では「一人前」と称されていた先輩社員
大手メーカーに勤める河野さん(35歳男性)は、今年が海外駐在2年目になる。独身のため、一人で海外赴任をした。学生時代に海外留学をしたり長期で海外滞在をしたりした経験はなかったものの、20代から海外志向が強かった。仕事の合間を縫って英語の勉強をコツコツ進めて、休日には英会話教室にも通った。社会人3年目頃から将来海外駐在することを希望し、毎年上司との面談では、英語も堪能であることをアピールしてきた。河野さんは日本にいた時のことを振り返り、何年にもわたり上司に言われ続けたことを語ってくれた。
「海外の駐在先では、本社にいる時のように周りにたくさん先輩社員がいるわけではないから、まずは早く国内の仕事で一人前となり、自分の仕事に自信を持てるようにならなければ、海外駐在は実現しないよ」
それ以降、河野さんは「仕事で一人前」とは何かをずっと考えながら、一生懸命に働いた。ただ、海外駐在のチャンスをつかめないまま入社10年以上が経過した。そんなある時、1つ年上の先輩が海外赴任の任期途中で急きょ帰国したことで、展開は大きく動くことに。先輩社員の代わりに河野さんが海外駐在することが決まったのだ。予想外の出来事に河野さんはとても驚いたという。
その先輩は河野さんとも親しく、海外赴任前の日本にいた頃は長時間労働を辞さず、いつも残業してたくさんの仕事をこなし、社内外ともに働き者としても知られていたそう。仕事に対して責任感の強い人だったため、上司からの評判もよかった。
そうした先輩の海外駐在が決まった時、「仕事で一人前」とは彼のような人のことを意味するのかと、河野さんは実感した。確かに彼と比較すれば、自分はまだ半人前なのかもしれない、彼ほど仕事にコミットはできていないと思ったからだ。
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