ただ、世間の論調は「今どき、年の差なんてあってもなくても、うまくいく人はいくしいかない人はいかないもの。好きなように生きればいいよね」という肯定的なものがある一方、「あと10年もしたら介護が始まるんじゃないの」「この年齢では、すぐに男は女性を性的対象とは見られなくなる」などとどこか冷たい意見も多い。男女が逆だったら、こういう声は出てこないのかもしれない。
男が年上なのが当たり前、男の経済力に女が頼る方が普通、年下の女が年上の男に従う方がうまくいく。そんな従来の夫婦関係にとらわれている人たちがまだ多いということなのだろうか。
著名人にも多い超年上妻
フランスのマクロン大統領は、1977年12月生まれの47歳、妻のブリジットさんは1953年4月生まれの72歳。現在の年の差は25歳だ。2007年に29歳と54歳で結婚したが、出会いはブリジットさんが教師をしているときの教え子が彼で、しかも彼女の娘の同級生だったという。日本のプロ野球界で活躍したペタジーニ選手は25歳年上の女性と結婚していたが、彼女もまた彼の友達の母親だった。
漫才コンビ・ナイツの師匠でもある内海桂子さんは、24歳年下で実娘と同じ年齢の男性と69歳で事実婚、77歳のときに結婚式を挙げて婚姻届を出している。
フランスの著名な作家・マルグリット・デュラスが晩年の16年間を一緒に過ごしたのは、デュラスの作品を愛する38歳年下の男性・ヤンだった。デュラスが亡くなったあと、その一人息子といろいろ揉めたようだが、ヤンは2014年に逝去。愛するデュラスと合葬されてモンパルナスの墓地に眠っている。
女性が大幅に年上だとうまくいかないとか、女性の方が高収入だとダメだとか、結婚は愛情だけではやっていけないだとか……。どれも現実的な意見なのかもしれないが、それでもうまくいくカップルはいるし、ごく“常識的な”結婚であっても別れるときは別れるものだ。人はドラマティックな恋愛に憧れる一方で、それを現実のものとして生きている人には難点を見つけて嫉妬をおさめようとするのかもしれない。
23歳年下の彼と事実婚
「今、一緒に暮らしているのは23歳年下の男性なんです」ミツエさん(51歳)は照れながらそう言った。彼は、彼女の娘の高校時代の後輩だという。昔は家に遊びに来たこともあるそうだ。
「当時からよく彼に相談ごとを持ち込まれていました。娘の後輩ということもあって、私はまったく彼を男性として意識していなかった。でも彼が大学生のころ、私の職業に興味があるから話を聞かせてほしいと改まって言われて……。仕事の内容を知ってもらうために、私が所属している企業に来てもらって社内を案内したこともあった。お礼にと食事に誘われ、そこで初めて告白されました」
ちょうどそのころ、娘が社会人になったのを機にミツエさんは夫から離れて一人で暮らし始めていた。夫とは性格が合わず、離婚を切り出したのだが応じてもらえなかったため、実力行使で家を出たのだ。
「一人暮らしを満喫していたし、そんな年下の子と恋愛する気もなかったから、あなたのことは息子のように思ってる。思い切り自分の人生を生きてほしいと言ったら、僕の人生にはあなたが必要なんだと言われて。必死の形相で訴えてくる彼に心揺さぶられたのは事実です。でも常識的に考えて、男女の関係はなれない。何度もそう言ったし、彼も一時期は分かったと言っていたんですが」
深夜に彼が泥酔してやってきて……
彼はどうしても諦めきれなかったようだ。彼が無事に就職してからも食事をしたり飲みに行ったりする関係が続いた。そしてある日、深夜に彼が泥酔してやってきた。「泥酔して号泣して、あげくふと触れたらものすごく熱い。熱が出ていたんです。こんなにボロボロになるくらい愛してくれているのかと思ったら、私も自分を抑えることができなくなった。いつか別れることになってもいい、彼の気が済むまで一緒にいようと思ったんです」
彼女の離婚が成立していないので同棲という形をとっているが、友人や知人は「夫婦」として見てくれている。
「他人がどう見るかはどうでもいいやと思っています。中には嫌みっぽく『息子さん?』なんていう人もいますけど、私は適当に流すだけ。彼は『夫婦です』といちいちきっぱり言ってますけど」
今は彼を信じて生きていく
彼は、家を建てようかなどと長期的な計画を話し合おうとするが、ミツエさんはそれに乗り切れない自分がいるという。「5年後くらいまでの話ならいいんですが、長期的な展望を言われると、いつもそれまで二人の関係が続くんだろうかと思ってしまう。彼はそのあたりを察したのか、『年齢差があっても、僕が先に逝くかもしれない。互いにそういう不安は同じように抱えていると思う』と言っていました。とにかく今は彼を信じて一緒に生きていこうと思っています」
期待し過ぎず、でもしっかり寄り添っていく。そう決めていると彼女は言った。