軽さが取り柄の夫
結婚して15年、中学1年生の娘と小学5年生の息子がいるハルカさん(46歳)。夫も同い年で、独身時代から「ちょっと軽いヤツ」だったという。「まあ、その軽さが家庭を築いていく上ではよかったとは思っているんです。軽くて大ざっぱだから、こちらも深刻にならなくてすむ。夫のノーテンキさに救われるところは多々ありました」
昨年、社内で異動があり、夫はその軽さが認められたのか突然、営業に配置転換となった。夫が言うには営業部長が自分を買ってくれたとのことだった。
「宴会部長だからでしょと思わず言ってしまいました。結婚するまで私は同じ職場で働いていたんですよ。あのころから夫は宴会部長と言われていた。経験を重ねて、さらに宴会部長に磨きがかかったんじゃないでしょうか」
夫は仕事熱心ではあるが、子どもたちが産まれたときは「仕事より赤ちゃんでしょ」と会社を休んで付き添っていてくれた。夫の言葉は名言となり、後輩たちも妻の出産時にはさっさと会社を後にするようになったという。
「夫はその軽さにまぶして、結局自分のやりたいようにやってしまうんです。アイツならしょうがないなと周りに言われて許される。得な性格だと思います」
夫の不審な言動に……
家庭大好きな夫の様子に変化があったのは今年の初めごろだ。付き合いや残業は最小限度と言っていたのに、妙に帰宅が遅い。かといって仕事が多忙とも思えない。多忙なときの夫はもう余裕がなさげに見えるのだが、なぜかやたら鼻歌を歌って余裕を「かましている」ように見えた。「娘に『お父さん、意外とモテるんだよ』と言っていたこともあります。娘から、気持ち悪いと言われて撃沈していましたが。ただ、怪しかったですね。なぜか鏡に向かう時間が長くなっていました。男も化粧水くらいつけた方がいいんだよねと言い出す。マメにハンカチやティッシュの点検をしている。もう分かりやすいなあと思いました。おそらく気になる女性ができたんだろうと」
ただ、本当に浮気するかどうかは分からない。信じたいけど信じられない。ハルカさんは一人葛藤していた。
娘が携帯を見て
いつもならそのへんに放り出してある携帯電話をバスルームに行くときでさえ持っていくようにもなっていた。ところがある日、携帯の通知がピンピン鳴ってることに娘が気づいた。夫は風呂に入っている。忘れていったようだ。
「お父さんの携帯が鳴ってると言ってディスプレイを見た娘が、『お母さん、お父さんの携帯、女の人からLINE来てる』と言うんです。パッとみたら、リカとかリナとか、なんかそんな名前が見えました」
娘の手前、見ちゃダメよと言いながら、深夜、ハルカさんは寝静まった夫の携帯を手に取った。パスワードは娘と息子の誕生日を合わせた番号だと知っていた。
「若い女性なんでしょうね、『先日はごちそうさまでした。ダイちゃんのやさしさに胸がときめきました』なんて文章が。夫はダイスケって言うんですが、若い女性にダイちゃんなんて呼ばれて鼻の下伸ばしてるわけねと。それはまだ見過ごせたんですが、別のLINEでは、女性を温泉に誘ってるんですよ、夫の方から。相手もまんざらではない受け答え。これは放置できなかった」
夫の携帯チェックが日課に
それをきっかけに毎晩、夫の携帯を見ずにはいられなくなってしまった。いけないと分かっていながら見てしまう。温泉に誘った女性は、どうやら離婚を考えているらしい。もっと緻密に計画を立てないとダメだよ、夫には厳しく接しなければ慰謝料ねぎられるよと、かなり深い相談になっていた。「そんなことは弁護士に相談しろと思いました。夫が首を突っ込んでいい話じゃない。そんなことをしていながら、夫は変わらず帰宅が遅いし、なぜか上機嫌な日々。だんだん私の方が追いつめられていくような気がしました」
ハルカさんも仕事をしているのに夫の携帯を見始めると時間を忘れた。そしてある日、「金曜の夜から出張なんだ。営業はけっこう出張も多いみたいで」と夫が言った。温泉かとハルカさんはドキッとしたという。
「携帯を見て確認しようと思ったんですが、その週は夫の帰りが遅くて、私は先に寝落ちしていて見られなかった。そして金曜日、夫は着替えをもって出かけようとしました。『土日でも出張先で仕事があるわけ?』と言ったら、ちょっとあわてたように『互いの日程が合うのはここしかなくてさ。明日の夜には帰れるかもしれない』と煮え切らない言い方でした」
だが夫はその日、いつもより早めに帰宅した。
女性とのLINEのやりとりに呆然
「いったいどういうことなんだろうと夜中に夫の携帯を見たら、例の人妻とのやりとりで『どうして来てくれないだ』と叫んでいるふうな夫の言葉と、『私は最初から温泉に行く気などないと言ったはずです』という女性の言葉がありました。何これ、と私は呆然でした」夫の勇み足というか早とちりというか。これ以上しつこくしたら問題が起こるのではないかとハルカさんは危惧した。だが、夫はそれからも特に変わった様子がない。
「イチかバチか温泉に行く想定でいた、ということなんでしょうね。もしかしたら彼女が来てくれるかもしれない。そこを詰めて約束をとりつけるようなタイプではない。疑似恋愛を楽しんでいたのか、あるいは棚ぼたを狙っていたのかは分かりませんが、いずれにしてもモテてはいなかった。ホッとしたような、何だかバカにされたような複雑な気持ちです」
モテているつもりで有頂天になって調子に乗るタイプなのか、断られるのを承知で楽しんでいるのか、夫の本性が分からなくなったと彼女は言う。いずれにしても、しばらくは要注意ですと表情を引き締めた。