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「僕には貯金がほぼありません」映画『はたらく細胞』監修医が明かす意外なお金の使い方

テレビ出演や映画の医療監修など、多方面で活躍する江戸川病院副院長・明星智洋医師。幅広い活動の裏には、一般的なイメージとは少し違うお金との向き合い方がありました。明星医師の「お金と時間」に対する考え方に迫ります。

松本 健太

松本 健太

富裕層のお金 ガイド

保険業界で10年以上、数百の法人、富裕層(経営者・医師・プロ野球選手等)を担当。IFA(資産アドバイザー)として「超まじめ」に保険・証券を扱い、広く資産形成に関する提案をしています。2020年より総合保険代理店・IFA法人「EMPRO Risk Management株式会社」代表取締役。

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江戸川病院副院長の明星智洋医師

「日本一病院にいない副院長」と呼ばれる江戸川病院副院長・明星智洋(みょうじょう・ともひろ)医師。がん治療の最前線に立ちながら、テレビ出演や映画『はたらく細胞』の医療監修など、多方面で活躍しています。

さらに「ハイパーメディカルクリエイター」として企業と病院をつなぐ活動や、飲食店経営まで手掛けるなど、その活動は医療の枠を超えて広がっています。

幅広い活動の裏には、一般的なイメージとは少し違うお金との向き合い方がありました。長年交流のある筆者が、明星医師の「お金と時間」に対する考え方に迫ります。

>>インタビュー動画をYouTubeで公開中です

「1+1を3にする」ハイパーメディカルクリエイターの仕事

――がん治療に最先端で関わる一方で、「ハイパーメディカルクリエイター」という肩書もお持ちだそうですね。

明星智洋さん(以下、明星さん):「ハイパーメディカルクリエイター」は、企業と医療・病院をマッチングさせ、新しい価値を生み出す役割を担う私のもう一つの肩書です。誰もやらないこと、つまり「0を1にする」のではなく、すでにあるもの同士を掛け合わせることで「1+1を3にする」ことを目指しています。

――具体的にはどのような活動を行っていますか?

明星さん:例えば資生堂とのコラボでは、航空会社でも使われている笑顔アプリを病院に導入し、サービスの質向上を図りました。また、アロマ香料を製造・販売するコードミーと協力して、抗がん剤治療の待合室にアロマを焚いて患者さんの不安を和らげる実証実験を行ったほか、ユーグレナと共同でがん患者さんの臨床試験にも取り組んでいます。

最近では、分身ロボット「OriHime」を病院に導入するプロジェクトも進めています。これは、何らかの理由で外出が難しい人が遠隔でロボットを操作し、病院の受付業務などを担うというものです。ベッドから出られない人が、誰かの役に立ち、賃金を得られるという究極の雇用創出につながると考えています。

――医師として十分な収入があり、またお忙しい中でなぜそのような活動をしているのでしょうか?

明星さん:確かに、月曜日から土曜日までずっと診療していて、夜は誰かと食事をしているので、毎日とても忙しいです。私のスケジュールは4カ月先まで埋まっていますが、医者と食事をすることはほとんどありません。会うのは、上場企業の社長やベンチャー企業の社長たちです。

彼らが持つ技術や知識、ネットワークと、僕が持つ医療の知見を掛け合わせることで、日本の、そして世界の医療が変わるのではないか? そんなワクワクするようなミーティングをいつもしているので、忙しさは気にならないですね。

異分野のトップランナーたちとの対話から革新的なアイデアを生み出すことこそ、僕が追求する医療の新しい可能性なんです。

新しい取り組みは「得体の知れないもの」として、どこの病院に持って行っても断られることがほとんどです。だからこそ、それを最初にやるということが非常に大切であり、私はこうした新しい取り組みの「ファーストペンギン」として、この規模で動くことができる。それが、私のもう一つの肩書である「ハイパーメディカルクリエイター」の役割だと考えています。

こうした活動は、お金のためだと思われがちですが、そうではありません。お金だけでは測れない、新しい医療を生み出す「ワクワク」や、異分野の人たちとの「つながり」こそが、私にとって最も大きなモチベーションなんです。

医師なのに飲食店経営、映画監修――お金以上の報酬とは

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「全国梅酒まつり」の発起人としてイベントに立つ明星医師(東京・上野公園で)

――「ハイパーメディカルクリエイター」のほかに、飲食店の経営もされているとのことですが、これはどういった経緯で始められたのですか?

明星さん:高校生の時に亡くなった祖母が、毎年梅酒を漬けてくれていたんです。初心を忘れてはいけないと、毎年6月になると祖母のことを思い出しながら梅酒を漬けています。それが僕にとっての「原点回帰」なんです。

当初は毎年1本ずつ作っていましたが、市販の梅酒にもさまざまな種類があることに気付き、インターネットで30本ほど購入したのをきっかけに、面白くなってコレクションするようになりました。気付けば300種類もの梅酒が集まり、自宅の1部屋が梅酒で埋め尽くされるほどに。さすがに飲みきれないし、置き場所もない。それなら、みんなにこの梅酒の面白さを知ってもらいたいと思ったんです。

そこで、まずは「梅酒研究会」という団体を立ち上げました。当時は都内のレストランを貸し切り、持参した梅酒で一夜限りの「梅酒ナイト」を開催していたんです。これまでに90回以上開催しましたが、毎回会場と交渉するのが大変で……。それならいっそのこと、自分で店を作ってしまおうと考えました。

そして十数年前、飯田橋に「梅酒ダイニング明星」という店をオープンしました。100種類の梅酒が1000円で飲み放題というお店で、多くの人に梅酒を楽しんでもらえる場になりました。

――医師が本業の傍ら飲食店経営とは驚きです。利益を出すコツはあるのでしょうか?

明星さん:これまでプロデュースを含め、20店舗近くの飲食店に関わってきました。医師という本業があるため、飲食店で自分の利益を追求することは考えていません。初期投資は回収しますが、それ以上の利益は取らず、出た利益は現場に還元しています。

これにより、スタッフのモチベーションが向上し、お店も存続しやすくなるというよいサイクルが生まれると考えています。

――映画「はたらく細胞」の医療監修も担当されたそうですね。
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映画『はたらく細胞』の武内英樹監督と笑顔で記念撮影

明星さん:以前から医療ドラマや映画の監修を担当してきたのですが、『はたらく細胞』もその一つでした。この仕事はほぼ無報酬で引き受けたのですが、結果的に大ヒットとなり、監督や脚本家との間に深いつながりを築くことができました。

お金という直接的な報酬はなかったものの、こうした人との出会いや信頼関係を築くことこそ、私にとって最も価値のある報酬だと考えています。この経験は、お金では買えない貴重な財産になりましたね。

稼ぎは皆でシェア、診療科を支える「ペイフォワード」の仕組み

――医師は高収入なイメージがありますが、勤務医の方の実情はどうなのでしょうか。

明星さん:勤務医の平均年収は約1500万円、開業医はその倍の3000万円近くになると言われているので、一般的に見れば高収入であることは間違いありません。私の場合、副院長として役職手当はつきますが、給与の一部を部下たちに還元しています。

これは「ペイフォワード」の精神に基づいています。私が病院の外で活動できるのは、部下たちが頑張って診療科を支えてくれているからです。そこで、私は院長や経営者と直接交渉し、腫瘍血液内科独自のインセンティブ制度を設けてもらいました。

診療科全体の業績に応じて毎月の報酬額は変動しますが、みんなのモチベーションが上がり、結果として診療科全体の業績も伸び、全員が幸せになる。そんなよいサイクルが生まれると考えています。

――お金の使い道や投資法について教えてください。

明星さん:私は余剰金をただ貯金だけしておくのは全く意味がないと思っています。余ったお金は、不動産や株式、そしてベンチャー企業へのエンジェル投資に回しています。そのため、僕には貯金がほぼありません。

かつては不動産投資を10件やっていたこともありますし、金(ゴールド)の積み立ても続けています。最近では機関投資家として登録したり、あるベンチャー企業への出資で著名な経営者と一緒に名を連ねたりもしました。

――投資をする上での、判断基準はありますか?

明星さん:僕は「投資をした結果、世の中がどう変わっていくか」という方向性を軸に置いています。目先のお金を求めれば、明日から美容外科医になることもできますが、そうならないために毎年梅酒を漬けて初心を忘れないようにしています。

お金だけが報酬とは限りません。医療の分野でも、例えば私が取り組んでいるプレシジョンメディシン(*)は、まだ限られた場所でしか行えない治療ですが、10年後に日本のがん治療の標準になれば、多くの患者さんを救えるはずです。その時に歴史に名を刻むことも、大きな報酬だと考えています。そして何より、人とのつながりはお金では買えないと思っています。

*がんの原因となる遺伝子変異を特定し、その原因をピンポイントで狙い撃つ「分子標的薬」を用いる治療法

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

明星さん:人生を楽しむためには、3つの余裕が必要だと考えています。一つは金銭的余裕。生活するためのお金は必要です。2つ目は精神的余裕。ストレスがあってはいい仕事はできません。そして3つ目は時間的余裕。この3つがあれば、人生を楽しめると思います。これは医師に限らず、全ての人に言えることかもしれません。一度しかない人生、みんなで楽しんでいければと思います。

<インタビューを終えて>
明星医師のお話から見えてきたのは、お金や時間を「今のため」に使うのではなく、「未来のため」に投資するという一貫した哲学でした。お金を単なる「報酬」としてではなく、より大きな価値を生み出すための「手段」と考える姿勢は、私たちに多くのヒントを与えてくれます。

目の前の利益ではなく「世の中をどう変えるか」を軸に置いた投資こそが、結果としてお金では買えない大きなリターンをもたらすのかもしれません。

素晴らしい人間性と「がん患者を救いたい!」という強い意思で人生を切り開いてきた明星先生。今後のさらなる活躍を祈念いたします。

インタビュー:松本健太、早崎友人(EMPRO Risk Management)
構成:井澤梓、横川あきな

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