日本人の特性を考慮した技術の結晶
桐生選手が履くasicsの厚底シューズ「META SPEED SP 2」は、asicsが特許出願中(特願2022-124010)の技術が用いられていると考えられます。その概要は以下の通りです。1:厚みがあり高反発素材のミッドソールを、2枚のプレートで挟み込むことにより、衝撃を和らげつつ、効果的な反発性を実現する(上部のプレートはカーボンプレートにする)
2:ボトムプレートの足の親指(母指球)部分をやや上にくぼませることで、接地から蹴り出しまでの間の足の動きの安定性を高める
ソール構造は図1のようになっています。

図1:「METASPEED SP 2」のソール構造 ※画像:特許情報プラットフォーム

桐生選手が以前履いていた薄底シューズ「METASPRINT」※画像:asics 公式Webサイト
なぜこの技術が重要かというと、それは「日本人の走り方の特徴」と関係があるからです。
1991年の世界陸上東京大会の時に、日本陸上競技連盟バイオニクス研究所が、100m走において優勝したカール・ルイス選手(アメリカ)と日本人選手との走り方の違いを研究した際に、日本人選手は足首の角度が大きく変化していることが明らかになりました。図2はその変化の違いを解説しています。
当時100mを9秒86で走り優勝したカール・ルイス選手は、驚くほどに足首角度の変化が小さいのです。
これは、足首角度の変化を小さくすることができれば、より速く走れることを示唆しています。asicsは、このような日本人特有の走り方の特徴を踏まえて、より速く走れるような技術を開発し、それがシューズに生かされています。
桐生選手がさまざまな厚底シューズを試した結果、日本のメーカーであり、日本人選手の走り方を踏まえてシューズ開発をしているasicsの厚底シューズが一番しっくりきたのも、納得できることかもしれません。
日本が誇るメーカーとして、NIKEやadidasに負けないシューズを作れるasicsによって、日本人がより速く走れるようになること、そして桐生選手のさらなる記録更新にも期待したいです。
【“特許”という視点から見る世界陸上】
- #1 汗をかくほど冷却される?女子マラソン銅・パテルナインが頭に着けていた「Omius」の秘密
- #2 日本人向けの技術がハマった!競歩銅・勝木選手が履く「かかとのない厚底シューズ」とは?
- #3 厚底特許シューズでNIKEを打倒!? マラソンで「asics」が“ゼロ”から逆襲できた理由
>次ページ:桐生選手が履くasicsの厚底シューズ「METASPEED SP2」