子どもたちに手がかかっているとき
「共働きなので、それなりに家事育児は分担していますが、比重としてはやはり8:2で私です。夫としてはそれがどうも不満みたいで……」マサエさん(40歳)はそう言う。子どもたちは現在、8歳と5歳だが、これまでも夫が急に不機嫌になったり文句を言ったりするのは、マサエさんが子どもたちを優先させているときだった。
「例えば子どもが熱を出して寝ている。当然、私は頻繁に子どもの様子を見に行きますよね。そんなときに限って夫が夜、急に押し倒してきたりするわけですよ。ふだんはそんなことしないのに。私は夫を押し返す。そんな気分じゃないから。そうすると『どうして夫婦にとって大事なことをないがしろにするの?』って。いや、今は子どもの体調が最優先でしょと言うしかなかった」
子どもが生まれてからいろいろな場面で、夫はそういう言動を繰り返してきた。今でももちろん、マサエさんが最優先しているのは子どものことだ。彼女は夫にも当然、そうしてほしいと思っている。
私は一人しかいないんだから
「親は大人なんだから、私たち二人が子どもたちを最優先にしなくて誰がするんだろうと思う。夫は結婚したら、妻はいつでも夫を最優先すべきだと思っていたのかとがっかりしました」だが夫は分かっているのだ。オレを最優先してほしいと言ったら、妻にバカにされることを。だからストレートには言えず、鬱屈(うっくつ)した気持ちを抱えているのだろう。もちろん、夫だって子どもをないがしろにしていいとは思っていないはず。
「でも私は一人しかいないわけで……。夫の前で時々、『ああ、体が2つほしいわ』とか『1日が40時間だったらいいのに』とか、聞こえよがしに言ってみるんですが、そういうときの反応は薄いんですよ。だったらもっと自分が家事をやるから、夫婦の時間も持とうよと言ってくれれば私も寄り添う気持ちになれるんですけどね」
互いに求めているものが微妙にすれ違っているのかもしれない。
私が楽しむことにも嫉妬
ごくまれにだが、マサエさんは近くに住む実母に子どもたちを見てもらって、仕事帰りに同僚や友達と食事に行くことがある。「夫が5回飲み会に出るとしたら私は1回。そんな頻度です。私だってそのくらいの楽しみはほしいですからね」
おいしかった料理を撮影し、SNSに上げることもある。それは決してリア充を自慢したいわけではなく、楽しかったから記録しておきたいという思いからだ。
「それを一緒に行った友人たちとコメントし合ったりすると、楽しさが増幅する。別に高い店に行っているわけじゃないんですよ。でも夫はSNSをまったくやっていないので、『ああいう写真をアップするのはみっともない』と。私は、そこは価値観の違いだねと受け流していますが、『きみはいつも子ども最優先といいながら、こういうときは自己中じゃないか』って。おそらく夫は嫉妬しているんだと思う」
夫は勤務先の飲み会には行くが、友達とどこかに出かけたとか食事に行ったとかいう話はほとんど聞いたことがない。友達がいないのではないかと気にかけたこともあるが、尋ねても特に答えが返ってこなかったのでそれ以上は聞かなかった。
夫の不機嫌の原因
「私が楽しい時間を過ごしていることが気に入らないんでしょうね。だから私が友人と食事をしたその週末は、ふらっといなくなるんですよ。駅前のパチンコ屋にいることは近所のママ友の話からつかんでいます」子どもたちと密に過ごせる週末なのに、なぜパチンコなのか、マサエさんにはまったく理解ができないという。
「1週間の献立や作り置きなどで、私はけっこう時間をとられる。最近は子どもたちにも手伝ってもらっています。一緒に料理することで楽しめるから。夫はそれもあまり気に入らないみたい。自分が家庭に深く関与しないのに、どうして『子どもたちにあまり家の中のことをさせない方がいい』と言えるんでしょうね」
それも本当なら、「お願い、手伝って」と妻から懇願されたいのかもしれないと彼女は言う。つまりは「夫を立てない」ことが不機嫌の原因なのではないかと。
「たぶん夫の母が父を立てるタイプだったんでしょうね。でも私はそういう価値観は持っていない。妻に立ててもらわなければ立てないようなら、立たなくていいですよと思っちゃう。もっとフラットに心を開くことができないんだろうかと夫を見ながら、いつもそう思っています。そうも言ってるんだけど、夫から見ると私が何を求めているか分からないんでしょうね」
永遠のすれ違いですねと、マサエさんは苦い顔をして笑い、「めんどくさい」とつぶやいた。その一言が夫婦関係の全てを表しているのかもしれない。