夫の単身赴任を経験して
29歳の時に、3年間の交際を経て1歳年上の男性と結婚したミサさん(45歳)。31歳で長女を授かった半年後、夫が遠方に転勤になった。「夫はもちろん家族と共にと思っていたようです。でも私はちょうど娘の保育園が決まったこともあって仕事に復帰するつもりだった。家族は一緒にいないとダメだと夫は決めつけていたけど、じゃあ、私の人生はどうなるの、私のキャリアはどうなるのと言ったら言葉は返ってこなかった」
たとえ愛する夫でも、「人の後をついていく人生は嫌だ」というのがミサさんの考え方。夫もそれはよく分かっていたはずだ。
「そのときはとりあえず転勤は2年間ということだったので、1人で行ってもらいました。夫は会社でも『家族が一緒に行ってくれないの』と驚かれたようです。でもだんだん夫は私に感化されてきて、『夫婦だって、それぞれの仕事や人生があるよなあ』と言うようになっていました」
2年の間、夫は月に1回は帰宅して4日ほどを過ごした。月に2日を2回より、4日まとめて家にいることをミサさんも望んだ。
不安はなかった
「その他の日は完全に母子家庭でしたけど、私も忙しかったし、それほど寂しさはなかった。むしろ子どもと接することができない夫がかわいそうだなと思っていました。当時はまだスマホではなかったけど、携帯で娘の写真を撮って送り、メールや電話でコミュニケーションはとっていたつもりです」結婚する前、2人は2年ほど一緒に住んでいた。だからこそ、互いにどういう生活をしているのかも想像がつき、不安はあまりなかったという。
2年後、夫が戻ってきて3人一緒の生活が始まった。そしてミサさんは第2子を授かったが、その子が産まれて1年後、夫はまた転勤となった。ミサさんが36歳のころだ。
「そのときも夫は『やっぱり来ないよね』と笑いながら言っていましたね。ごめんねと私も言ったけど、夫は自分が子育てに関われないこと、私の負担が大きくなることを案じていました。まあ、なんとかなるよと私は思っていたけど」
今度は3年と長かったが、それも2人はクリアした。
別居を選んだ理由
ミサさんが40歳になる直前、夫は戻ってきたが、1年もたたないうちに2度目の赴任先と同じところに転勤となる。仕事上の都合で、どうしても夫が行く必要があったようだ。「頼りにされているならそれもいいじゃないと送り出しました。新型コロナウイルスの影響もあって予定が延びて、やっと帰ってきたのが2年前です」
しばらく転勤はないということで、ようやく家族4人の安定した生活が始まったのだが、すでに小学校6年生だった娘、小学校に入った息子たちと夫との関係はどこかギクシャクしていた。あげく、ミサさんと夫の間もスムーズにいかない。互いに思いやりをもって接しているのだが、それが裏目に出る。ミサさんは今まで感じたことのないいらつきを抱いていた。
「結局、夫がうちに毎日帰ってくるような生活は、わが家にとってはイレギュラーだったんですよね。それに気付いて、夫に正直に言いました。今まで、お父さんは時々帰って来る人だった、それがもう子どもたちにも私にも染みついている。だからしばらく別居してもらえないかって。夫は最初、抵抗していましたが、夫自身もおそらく家庭の居心地はよくなかったんだと思う。お金はかかるけど、歩いて15分くらいのところに小さなワンルームの部屋を借りてくれました」
平日は夫はそこで寝泊まりしている。金曜日の夜か土曜日の朝、夫がやってくる。予定では夫の帰宅頻度を増やしていくはずだったが、今も夫は週末だけの人のままだ。
今の距離感がちょうどいい
「正直言って、平日は夫がいないほうが私も楽なんですよ。子どもたちと3人なら、全て予定通りに時間を使えるし、子どもたちも安定している。ただ、子どもたちはお父さんのことも受け入れるようにはなっています。週末はお父さんとどこに行こうかと毎週のように遊ぶ計画を立てて、夫もそれに乗ってくれている」最近は週末の夜は、みんなで食事を作ることが増えてきた。娘が料理にとても興味があり、「今度の週末は私がパスタソースを作るから」と張り切るようになった。4人で皮から餃子を作ったりピザを作ったりと、1日は完全に家族だけで過ごすのが習慣だ。
「いずれ完全同居になるのかどうか、今のところは分かりません。ただ、私も部署が変わって、今後は1泊程度の出張をすることになるので、そういうときは夫に頼るでしょうね」
平日、ワンルームで寝泊まりしている夫も、今の環境は悪くないと思っているようだ。周りや友人たちは、夫婦関係は大丈夫かと心配しているようだが、このくらいの距離感が私たちには一番いいと思うと、ミサさんはあっけらかんと話した。