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中国にはなぜ「専業主婦がいない」のか? 日本人が驚く超個人主義社会なのに愛国心が強いワケ

なぜ中国には専業主婦がいないのか? 個人主義が徹底された社会で、なぜ「国のために戦う」と7割が答えるのか。その矛盾に満ちた社会構造と、日本人が知らない強烈な愛国心の源泉を紹介。※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

専業主婦という概念がなく、夫婦も個人として独立している中国。なのに、愛国心が強いのはなぜ?※画像出典:PIXTA

専業主婦という概念がなく、夫婦も個人として独立している中国。一方で愛国心が強いのはなぜ?※画像出典:PIXTA

専業主婦という概念がなく、夫婦も個人として独立。中国のドライな個人主義社会が、なぜ異常なほどの愛国心を生むのか?

日本を代表する中国ウォッチャー・近藤大介氏の著書『ほんとうの中国 日本人が知らない思考と行動原理』から一部抜粋し、中国人の個人主義と、その裏にある強烈な愛国心の背景について紹介します。
<目次>

専業主婦がいない社会

中国では日本と比べて夫婦それぞれが独立している。「専業主婦」という中国語はない。女性は結婚しようが子どもが生まれようが、社会へ出て働いている。休むのは、出産の場合か病気になった時だけだ。

私は北京駐在員時代、約3000人の中国人と名刺交換したが、男女ほぼ同数だった。女性の上司と男性の部下という組み合わせも、ごく普通に遭遇したし、女性が運転するタクシーやバスにもよく乗り合わせた。

かつて毛沢東主席は、「女性が天の半分を支えている(婦女能頂半辺天)」と述べたが、本当にそう思う。

そうやって夫婦が経済的に独立していると、家庭でも男女平等であり、日本にありがちな「ベタベタ頼り合う夫婦関係」にはならない。

もちろん、互いに愛し合って結婚したわけだが、それぞれの「領域」を持っているのだ。そうした状態は、日本人から見ると「互いに無関心」とも映る。

加えて、「一人っ子政策」が敷かれた1980年代以降に生まれた中国人は、基本的に誰もが「一人っ子」である。周囲に兄弟姉妹がなく育った彼らは、ますます他人に無関心な世代と言える。

個人の上はいきなり国家

中国人は、地域社会との関係も薄い。「同窓会」「同郷会」の類いはあるが、自分が住んでいる地域社会との結びつきはほとんどない。

いちおう、「城市居民委員会組織法」という法律に基づいて「居民委員会」という自治組織があるが、これはどちらかというと市民を監視するための組織である。

そのため、中国人が日本へ来て驚くことの1つが、「村祭り」「盆踊り」「運動会」といった地域社会の行事が盛んなことである。

中国にも、春節・清明節・端午節・中秋節などがあるが、親族一同で集まることはあっても、地域社会が一致団結する行事はあまり見られない。つまり日本であれば、家族がいて、その周囲に勤めている会社や地域社会がある。

だが中国では、「我」の上にいきなり「国家」が来る。習近平国家主席・共産党総書記が統べる強大な中華人民共和国&共産党政権が乗っかってくるのである。

習近平政権のスローガンの1つに、「国家があって初めて家庭がある(有国才有家)」という言葉があるほどだ。

7割が「国のために戦う」

そのため、中国人の愛国心は、おしなべて強い。テレビでも学校でも映画館でも、いつでもどこでも「義勇軍行進曲」(国歌)が鳴っている。

私は若い時分に北京大学に留学したが、学生寮に暮らし始めて1週間くらいで、中国国歌を諳(そら)んじてしまった。まるで洗脳するようにつねに聞こえてくるからだ。ちなみにこの曲は、1935年の抗日映画「風雲児女」の主題歌である。

2015年の統計だが、各国の世論調査機関が加盟するWIN-ギャラップ・インターナショナル(本部・スイス)が「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という世論調査を64カ国で実施した。すると「戦う」と答えたのは中国人が71%で、日本人が11%だった。

習近平政権は「必ず台湾を統一する」と宣言している。

これに対して、私の中国の少なからぬ友人・知人は、「もしも台湾と祖国統一戦争になったら、全財産を国家に寄付する」などと宣(のたま)っている。

「我」の上にいきなり国家が来てしまう社会の愛国心たるや、すさまじい。
  近藤 大介(こんどう だいすけ)プロフィール
1965年生まれ。埼玉県出身。東京大学卒業。国際情報学修士。講談社入社後、中国、朝鮮半島を中心とする東アジア取材をライフワークとする。講談社(北京)文化有限公司副社長を経て、講談社特別編集委員。Webメディア『現代ビジネス』コラムニスト。『現代ビジネス』に連載中の「北京のランダム・ウォーカー」は日本で最も読まれる中国関連ニュースとして知られる。2008年より明治大学講師(東アジア論)も兼任。2019年に『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)で岡倉天心記念賞を受賞。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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