『ほんとうの中国 日本人が知らない思考と行動原理』(近藤大介著)では、日本を代表する中国ウォッチャーの著者が、日本人が知らない中国人特有の思考と行動原理を解説。
今回は本書から一部抜粋し、なぜ中国人が大声で自己主張するのか、その背景にある「弱肉強食」社会の実態を紹介する。
声の大きい方が勝つ社会
日本で中国人観光客を見かけると、よく大声で話している。スマホで話す声も大きい。なぜ中国人は大声で話すのか? 私が思いつく理由は5つだ。第1に国土が広大で、「暮らしのスケール」が大きいから。
第2に、「声の大きいほうが勝つ社会」だから。
第3に、後述するように口を開いて破裂音などを発出する複雑な中国語の構造のため。
第4に、「鐘の音のように大声で話し、読みなさい」(音声如鐘)と教える学校教育の影響。
そして第5に、周囲の人々に無関心だからである。
総じて言えば、自分が大声で話しているという発想もない。
ちなみに中国人はテレビを見る時の音量も大きく、自宅にお邪魔して仰天することがある。また余談だが、セミの鳴き声も、中国のセミのほうが日本のセミよりも格段に大きく、かつがさつに鳴く。
ともあれ中国社会は、「我」と「我」とがつねにガチンコでぶつかっているから、おのずと弱肉強食の社会になる。時代と共に社会はマイルドになりつつあるが、基本形は変わっていない。
強者が優先される交通事情
たとえば、日本の交通ルールは弱者を守ることを目的に作られているが、中国では強者が優先される。高速道路には、最も強者である人民解放軍の優先レーンがあるくらいだ。一般道路でも、北京で私が住んでいたマンションの近くに8車線の大通りがあったが、そこの歩行者用信号の青信号は、わずか15秒だった。
そのため信号が赤から青に変わるや、歩行者たちはまるで短距離走のように、猛然とダッシュして横断歩道を渡っていた。高齢者や身体障害者などは、見かけたこともなかった。
自動車の運転にしても、日本ではドライバー同士が互いに譲り合うことがマナーとなっている。ところが中国の路上では、ドライバーたちは少しでも隙があれば「我先に」前へ割り込もうと、虎視眈々(たんたん)と目を凝らしながら運転している。
轢かれても被害者が悪い?
私は一度、中国で横断歩道を渡っていて、横から飛び出してきた原付自転車に轢(ひ)かれて倒れ込んだことがあった。足を引きずって起き上がれないでいると、運転手の中年男性が私を指さして大声で詰った。「おまえのせいでミラーが曲がってしまったではないか、ただちに弁償しろ!」
私はフラフラと起ち上がって反論を始めたが、足が痛くて声は掠れぎみだ。運転手は集まってきた野次馬たちに向かって大演説をぶち、駆けつけた交通警官にも大声で主張した。その結果、交通警官は私に言い放った。
「たしかに轢かれたおまえが悪い。いますぐ30元(約600円)を運転手に払え」
翌日から私は、朝起きると鏡に向かって、身振り手振りを交えて、大声で発声練習することにした。以来、罰金は取られなくなった。
近藤 大介(こんどう だいすけ)プロフィール
1965年生まれ。埼玉県出身。東京大学卒業。国際情報学修士。講談社入社後、中国、朝鮮半島を中心とする東アジア取材をライフワークとする。講談社(北京)文化有限公司副社長を経て、講談社特別編集委員。Webメディア『現代ビジネス』コラムニスト。『現代ビジネス』に連載中の「北京のランダム・ウォーカー」は日本で最も読まれる中国関連ニュースとして知られる。2008年より明治大学講師(東アジア論)も兼任。2019年に『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)で岡倉天心記念賞を受賞。