
富士フイルム「X half」11万8800円(税込)。W105.8×H64.3×D45.8mm、約240g(バッテリー・メモリーカード含む)。本体カラーは写真のブラックのほか、シルバーとチャコールシルバーがある。裏面照射型1インチセンサー、レンズは35mm判換算で32mm相当
フィルムカメラ好きの若いデザイナーによる企画で始まった
「当時まだ入社2年目だった若いデザイナーから、モックアップが上がってきたのが『X half』誕生のきっかけでした。形だけでなく、内部の機能やアプリを使って撮影を楽しむといった細部まで、コンセプトから具体的な機能も含めたアイデアの提案があったんです」と「X half」の商品企画を担当した渡邊淳さん。 そのデザイナーさんは、元々フィルムカメラが好きな方だったそうですが、すでにデジタルカメラやスマホでの撮影が当たり前になった状況の中で、フィルムカメラを使っている方だからこそ考えることができたカメラだという感じがするのです。何といっても、かつてフィルム代を節約できるのが魅力だと思っていた年配の世代からは、「デジタルカメラ」と「ハーフサイズ」を合体させるアイデアはなかなか生まれにくいと思うのです。だからこそ、コンデジ全盛の時代には、かつてのハーフサイズカメラのデザインに倣ったようなカメラは出てこなかったのでしょう。当時は、「デジタル」=「未来」のような固定観念めいた気分があって、デジカメもガジェット的な存在としてデザインされていたように思います。「カメラ」からいかに離れるかというのが当時の流れでした。
2枚の写真を組み合わせる「2in1」の面白さ
「1枚撮ったらフレーム切り替えレバーを操作し、もう1枚撮ると、その2枚が1つの組写真のようになるというのは、フィルムを巻き上げるという行為をほうふつとさせる点も含め、とてもイメージしやすかったんです」と渡邊さんが話すように、具体的な機能として提案されて初めて納得できるこのフレーム切り替えレバーも、フィルムが要らないことがデジカメのよさだと思っている立場では思いつきにくいアイデアです。
写真を1枚撮った後、このフレーム切り替えレバーを動かして、もう一度シャッターを切ると、前の写真と、今撮った写真が2枚1組の写真として保存される。すでに撮った写真とこれから撮る写真を組み合わせることも可能
もちろん、「組写真」という考え方は古くからあるのですが、それは、撮影した複数の写真を並べて展示する手法。それだと、SNSで1つの投稿に複数の写真を添付するのと変わりません。 「X half」の「2in1」機能の面白さは、それをあくまでも「1枚の写真」として扱う点なのです。「1枚1枚の写真が多少ブレていたりピンボケしていたりしても、組写真にすると物語性が出て雰囲気のある写真に仕上がる」という渡邊さんの言葉通り、視点が複数になることで、1枚ずつ見るのとは違ったイメージが伝わるのです。
カラーと白黒写真を組み合わせたり、同じ景色を違うフィルターで撮った写真を並べたりと、「X half」のほかの機能との組み合わせも楽しめます。
「写真を撮る楽しみ」が感じられるさまざまな機能
240gの小さなボディーにたくさんのフィルターと、いくつものフィルムの画質を再現するフィルムシミュレーションを搭載し、露出もピントもマニュアルで撮ることもできるなど、写真好きにうれしい機能をたくさん搭載しつつ、「撮る」ことそのもののハードルを下げようとするカメラなので、ついつい、何気ない景色にもレンズを向けてしまっていました。 その意味では、36枚なり、48枚、72枚なりと設定した枚数を撮り終えるまでは、撮った写真を確認できない「フィルムカメラモード」は、とてもこのカメラにぴったりの機能だと感じます。写真を撮ることの方が重要で、どう撮れたかはあとでのお楽しみというのも、シャッターを切るハードルを下げてくれるのです。写真が本来持つ一期一会感が強調されるのもうれしいところ。 フィルムによる色合いや写り具合の違いが再現されるフィルムシミュレーションは、富士フイルムの得意技で、すでにいくつものカメラに搭載されていますが、「X half」では、背面のディスプレイで、まるで実際にそのフィルムが入っているように表示されるのも気に入っています。筆者のお気に入りは、当時から好きだった、鮮やかな色表現と独特なムードがある「Velvia」や、懐かしいネガフィルムの味わいが濃く感じられる「CLASSIC Neg.(クラシックネガ)」、イエローフィルターなどの効果も再現できるモノクロフィルムの「ACROS」あたり。撮りたいものに合わせてフィルムを変えていた昔をすっかり忘れていた筆者は、まるで、別のカメラを使っているように写り方が変わるフィルムシミュレーションがすっかり気に入ってしまいました。 「富士フイルムの『Xシリーズ』ブランドの従来モデルでもエッセンス的に持っていたフィルムカメラのような体験を、よりユニークな形で提供できる点が特に魅力的」と、このカメラの特徴を渡邊さんは一言で表してくれました。
実際、フィルムカメラが持っていた面倒くさい面白さと、デジタルカメラならではの簡単さや気楽さがデザインを含め、本当にうまく製品化されていると思います。撮影はスマホでいいやと思っていたところに、久しぶりに現われた「持っていたい」カメラなのです。