人間関係

「母の存在が重かった。それなのに……」同じことを娘にした自分。消えない“心の闇”とは

娘がかわいい文房具をほしがったが、すぐに飽きるはずだと考え認めなかった45歳女性。だが彼女は夫の一言で、自身の母と同じことを娘にしていたと気づき衝撃を受ける。彼女のように、親にされて嫌だったことを子にしてしまう人は多い。※サムネイル画像:PIXTA

亀山 早苗

亀山 早苗

恋愛 ガイド

どうして男女は愛し合うのか、どうして憎み合うのか。出会わなくていい人と出会ってしまい、うまくいきたい人とうまくいかない……。独身同士の恋愛、結婚、婚外恋愛など、日々、取材を重ねつつ男女関係のことを記事や本に書きつづっている。

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子どものころはかわいい文房具がほしかった(画像:PIXTA)

子どものころはかわいい文房具がほしかった(画像:PIXTA)

「虐待の連鎖」という言葉がある。自分が虐待されて育った場合、気づかずに自身もまた子どもを虐待してしまうということだ。何が「虐待」なのか、何が「正しい」のか分からなくなるのかもしれない。虐待というほどの話でなくても、親にされて嫌だったことをいつしか子どもにしていたと話す女性たちもいる。

全て親の価値観で

「娘が小学生のころ、かわいい文房具をほしがったんです。周りの友達が持っているような筆箱や鉛筆、消しゴムなど。いわゆるキャラクターグッズです。私はそういうのは認めない、文房具は機能が優れていればよしと思っていたので、娘がお小遣いで買うと言っても買わせなかったし、私が買って、そろそろ換えた方がいいと思った段階で入れ替えるようにしていました」

クミさん(45歳)は、今思えばかわいそうなことをしたと言う。それ以外にも学校で使用する体操服入れやリコーダーケースなども無地の生地で手作りした。共働きで忙しいのに手作りしているのだから愛情を分かってもらえるとも思っていたし、かわいいキャラクターものなどはすぐ飽きるはずだとも感じていたからだ。

「ところが娘はあるときから、急に元気がなくなり、学校に行くのを嫌がるようになった。理由を聞いても何も言わない。夫が心配して娘を連れ出し、大好きなパフェを食べながら少しずつ話を聞いてくれたんです。そうしたら『学校で使うものが全て地味過ぎて、友達との話にもついていけない』『おばあちゃんみたいとからかわれる』ということが分かった。私が愛情込めて手作りしたものを否定された。誰に何を言われても、『ママが作ってくれた』となぜ言えないと腹が立ちました」

だが夫がポツリと言った。「子どもは友達と同じものがほしいんだよ」と。

その瞬間、クミさんはハッとしたという。自分にも同じ思いがあったと思い出したのだ。

母と同じことを娘にしていた

「私の母は厳しい人で、文具は全て母の管理下に置かれていました。私も好きな文房具なんて買ってもらったことはない。洋服だって、ほとんどグレーや紺ばかり。そういえば子どものころ、友達が消しゴムを交換したりしているのを見て羨ましかったのを思い出したんです。母に買ってほしいと言ったこともありましたが、『そんな役に立たないものはいらない』と言われて。ああ、私は母と同じことを娘にしていると衝撃を受けました」

大人になってから考えれば、かわいい文房具が大きな意味をもつとも思えないが、あの当時、クミさんはあまり友達がいなかった。勉強ができる優等生ではあったものの、友達との思い出はほとんどない。

「娘に申し訳ないことをしたと思うと同時に、馬が合わないと思っていた母と同じことを自分がしていたのがショックでした」

もちろん、何でも買ってやるわけにはいかないが、それ以来、娘の好きなキャラクターのついた文房具や体操服入れなどを買い与えた。娘は毎日、楽しそうに学校に通うようになったという。

どこにでもついてきた母

エイコさん(43歳)には、現在、13歳と11歳になる子がいる。二人が小学校中学年くらいになるまで、習い事には必ずついていった。

「送り迎えではなく、私も二人と同じように習っていたんです。上の子のスケート、水泳、下の子のバイオリンなど、どうせなら送迎だけじゃなくて私も習えば教えることもできるんじゃないかと。子どもたちのためを思って始めたことでした」

だが、そのうち一緒に習っているだけに、子どもへの不満や要求が多くなっていった。どうして先生に質問されたときに答えようとしないのか、どうして自分から積極的にやらないのか……と。

「スケートの先生から言われたんです。『お母さんがすぐそばにいると、どうしても気になってしまうって。友達と話す時間も、お宅はおかあさんとだけしか話していませんよね。他校の子とも仲よくなるチャンスなので、お子さんだけ習わせてあげてもらえませんか』と。あー、やっちまったと思いました。実はその昔、私の母は、私がどこかに行くとき必ずついてきたんです。友達の家に行くときも一緒にきて、ときには家まで上がってしまうこともあった。その家のお母さんと親しいわけでもないのにですよ。私はいつも母に監視されているようで心安まるときがなかったんです」

子どもたちが生き生きとしだして

それと同じことを自分もしていたのだとスケートの先生に気づかされた。上の子は内弁慶だからと心配していたが、ついていくのをやめたら生き生きとスケートを楽しんでいると先生から報告があった。スピードスケートに興味を示し、技術も格段に上がっているとか。

「親がずっとついていない方が子どもは伸びることもあるんでしょうね。確かに私も、母に監視されていると思うと体がこわばったことがありますから」

それ以来、時間によっては迎えに行くこともあるが、基本的には子どもの習い事にはあまり首を突っ込まないようにしているという。子どもたちは今も元気に、習い事を続けている。
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