なるべく家から出たくない
「そもそも出社が苦痛です。でも仕事は好きな方だから、なんとか頑張って毎日、出社しています」そう言うのはヨウタさん(36歳)だ。きゃしゃで色白、マッチョとは正反対のタイプで、しゃべり方も非常に温厚だ。
「なるべく家から出たくないし、早く家に帰りたい。仕事帰りに先輩や同僚と1杯やることもありますが、誘われなければとっとと帰宅します。帰ってシャワーを浴びて、簡単なつまみを作ってビール飲んで、やっとホッとするという感じ」
一人暮らしを満喫しているヨウタさんは、家でゲームをしたり映画を観たりするのが何よりも好きだという。ときには凝った料理を作ることもある。一人でいることを苦にしないが、昨冬から付き合い始めた5歳年下の彼女がいる。
対照的に活動的な彼女
「この彼女が活動的な人なんですよ。僕が夏の暑さに弱いからと言っているのに、『今週末はどうする?』と毎週、言ってくる。暑いから外に行くのは無理と言っても、彼女は野球を観に行かないかとか、野外ライブに行かないかとか……」本当はヨウタさん、冬の寒さにも弱いのだとか。だが冬は着込めばなんとかなる。知り合ったのが冬だったから、そのころは頑張って着込んで、真冬の遊園地に遊びに行ったこともあった。だが、この暑さはどうにもならない。
「僕、別に病弱というわけではないんです。ただ、もともとインドア派だし根本的に体力がないんでしょうね。スポーツやるとケガするし(笑)。命の危険があるから、不要不急の外出は控えるようにと喧伝(けんでん)されているのに、彼女は『プールならいいでしょ、プール行こうよ』って。行くまでの道中で倒れますよ」
そのうち彼女に愛想を尽かされるような気がすると彼は言う。酷暑に外出を強要されるくらいなら、フラれてもいいかもしれないと彼は力なく言った。
体力のない男はダメなのか
暑さに強い人もいれば、寒さに強い人もいる。筋肉量や脂肪量、汗腺数などの差によると言われているが、「暑い=気力が萎える=食べたくない=体力が落ちる=さらに気力が衰える」という図式も成立するのかもしれない。「元カレがそうでした。暑くなると急に外に出なくなり、付き合いが悪くなる。当時、よくグループで集まっていたんですが、全然、参加しない。私が訪ねてみると、へなへなと出てきて、食欲がないんだよねと嘆く。作ってあげても食が進まないんです。サプリやゼリーで栄養をとってはいたみたいだけど。私は真夏の火鍋とかが大好きなので誘ったんですが、うんざりした顔をされちゃいました」
アキナさん(30歳)はそう言って苦笑した。体力は人それぞれだし、無理に鍛えろ、筋トレしろとは言わない。だが一緒に遊びに行って「疲れた」と連発されると、もう誘いたくないと思う。
「暑いから行きたくない」と言われ続けたら、付き合っていく意味が見いだせない。それが積み重なって、彼女は1年付き合った彼と別れた。
「季節によってテンションが違うんですよ。明らかに夏のローテンションは異常な感じだった。でも彼、健康には気を配っていたし、健康診断でも優等生なんです。それなのにあれだけ夏が苦手というのは、もはや気力の問題なのではないかと感じましたね」
つまり体力がないから暑さに弱いのではなく、暑いのが嫌だという思いから夏は体力がなくなっていくのではないかというのがアキナさんの実感だった。
こっちがおかしくなる
「どちらにしろ、夏は部屋で会ってもテンションが低い。楽しくないですよね。どうして私が部屋にこもる彼に付き合わなければいけないんだろうと思ったら、もういいや、と。互いに結婚も視野に入れて付き合ってたんですが、結婚後も夏が来るたびにこういう状態だったらこっちもおかしくなるわと思って」彼はすんなり別れに応じてはくれなかった。「なんとかする」と外でのデートにも応じると約束したが、実際、デートのドタキャンを2度ほどされてアキナさんは諦めた。
「同じように暑いから外でのデートはやめよう、互いの家に行くのも大変だからオンラインデートとか、涼しくなるまで会わずにいられるとか、そういう彼女を選んだ方がいいよと捨てゼリフを残して別れました。友人には、それはあんまりだ、彼がかわいそうだとも言われたけど、そういう彼なら一人で行動した方がずっと気楽」
体力は千差万別なので、体力がない男がダメというわけではないとアキナさんは繰り返した。ただ一方で、体力と気力には相関関係があるとも言った。体力気力ともに、自分とかけ離れていると、付き合っていくのは難しいのかもしれない。