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荒っぽい運転、交通マナーの悪さ…「名古屋走り」は本当? 不名誉なワードが生まれた理由と意外な事実

「名古屋走り」とは、名古屋のドライバーの荒っぽい運転や交通マナーの悪さを指す言葉。事実、愛知県の交通事故死者数は毎年全国ワースト上位。果たして名古屋は本当に危険な運転や事故が多いのか? 県警の見解やデータからその実態を探る。※写真:筆者撮影(以下、同)

大竹 敏之

大竹 敏之

名古屋 ガイド

名古屋めしと中日ドラゴンズをこよなく愛する名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなどに名古屋情報を発信。著書は『名古屋の喫茶店完全版』『名古屋の酒場』『なごやじまん』など。コンクリート仏師・浅野祥雲の研究をライフワークとし作品の修復ボランティア活動も主宰する

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片側4車線も当たり前。とにかく広い名古屋の道路 ※写真:筆者撮影(以下、同)

片側4車線も当たり前。とにかく広い名古屋の道路

「名古屋走り」。これは名古屋のドライバーの荒っぽい運転や交通マナーの悪さを指す言葉。スピードの出し過ぎ、むやみな車線変更や割り込み、交差点でのフライング発進などの行為が目立つといわれます。運転ではありませんが、違法な路上駐車が多いことも、交通ルールを守らないという点で名古屋走りの一種と見られています。
 
この言葉は、1989年に出版されてご当地ベストセラーとなった『100%名古屋人』(舟橋武志/リバティ書房)でもすでに次のように取り上げられています。

「無理な割り込みを平気でする。スピードは守らない。黄信号は『急いで渡れ』と思い込んでいるドライバーも多い。“名古屋走り”という有り難くない言葉まで生まれ、県外に出ると名古屋ナンバーというだけで地元の人たちを震え上がらせたりもする」

著者はその原因を「名古屋人のモラルの低さ」にあるとし、さらにその要因を「田舎だから」と断じています。

交通事故死者数はワースト上位の常連

「名古屋走り」の根拠をデータに求めると、まず交通死亡事故の多さが挙げられます。愛知県(県庁所在地=名古屋市)の交通事故死者数は、2024年は141人で都道府県別全国ワースト2位2003~2018年は16年連続ワースト1位で、以降もワースト上位の年が続いています。
 
「名古屋走り」や交通死亡事故が多い要因として考えられるのが、道路の広さと車の多さです。名古屋市は「100m道路」に代表されるように片側3~4車線が当たり前というほど広い道路が多く、自動車が走りやすい、すなわちついスピードを出してしまいやすい道路環境にあります。

市では太平洋戦争後の復興にあたり、来たるべきモータリゼーションを予見し、車道を重視した都市整備を全国に先駆けて進めました(地下街の発展もこれに伴うものです)。非常に先見性の高い取り組みだった一方、これが乱暴な運転や事故の多さという負の副産物も生んでしまったというわけです。
名古屋走り、100m道路、若宮大通

100m道路の1つ、若宮大通。高架が通っている部分が道路の中央部分。片側4車線あり、自動車は走りやすいが、歩行者は1回の青信号で渡り切るのは至難の業

車の数も愛知県は全国1位。全国約8280万台中539万台を保有しています(2025年)。先述したような車優先の街づくりに加えて、自動車産業が県の基幹産業であること、都市部にしては公共交通網が万全とはいえないことが、マイカーの台数を押し上げているといわれます。車が多ければ事故の件数も多くなり、それが「名古屋走り」というマイナスイメージにもつながっていると考えられます。

「『名古屋走り』の定義はない」と愛知県警

40年ほど前から問題視されてきた「名古屋走り」、果たしてその実態は……? 名古屋市および愛知県の交通事情を、愛知県警察に尋ねました。
 
「警察では『名古屋走り』を定義づけしているわけではありません」とは愛知県警交通総務課。

「『〇〇走り』と呼ばれるものは全国各地にあり、『名古屋走り』もその1つと考えられます」ともいい、周囲が眉をひそめるようなマナーの悪い運転はどの地域でも見られるともいえそうです。さらに「事故の傾向を他県と比較し、いわゆる『名古屋走り』に重点を置いた対策を取るということではなく、事故、ひいては死亡事故を可能な限り減らすことを目的に、法令違反に対する取り締まりをはじめ、さまざまな取り組みを行っています」といいます。
 
事故の発生傾向では、交差点内の自動車の一時不停止が相対的に多く、取り締まりもその防止を重点的に取り組んでいるといいます。

死亡事故数は半世紀で1/6以下に激減

名古屋走り

複雑な7叉路も。名古屋市昭和区の「鶴舞」交差点

都道府県別では、交通事故死者数で常にワースト上位にある愛知県ですが、実数は長期的に見て減少傾向にあります。ピークだった1969年の912人に対して2024年は141人。ちなみに全国ではピークの1970年の1万6756人から2024年は2663人に。いずれも、およそ半世紀で1/6以下とほぼ同様の減少カーブを描いています。この間の国内の自動車保有台数は1970年の約1650万台から2024年は約8280万台と5倍に増えていますから、割合的には交通死亡事故は劇的に減っているといえます。

「死亡事故が減っている要因は、交通安全施設の整備、安全教育の普及、自動車の安全性能の向上、医療技術の進歩などさまざまあり、われわれの取り締まりや啓発活動といった日ごろの活動もその1つであると考えています」(愛知県警交通総務課)

「名古屋走り」はイメージ先行? 意外なデータも

「名古屋走り」=運転が荒く事故が多い、というイメージが定着してしまっている名古屋、愛知ですが、実は相対的には死亡事故は決して多くありません。人口10万人当たりの交通事故死者数は1.89人で全国40位(全国平均2.15人/2024年)。自動車の保有台数は全国1位ですから、自動車1台当たりに換算するとさらに確率は低くなります。
 
ただし、交通事故発生件数は人口10万人当たり328.3件と全国ワースト5位(全国平均234.9件/2024年)。事故発生率(事故件数÷自動車保有台数)は2022、23年とも全国ワースト10位。交通事故自体は、絶対数も確率も少ないとはいえず、胸を張れるわけではありません。
 
「愛知県では例年100人を超える尊い命が失われており、都道府県別でワースト上位であることから、県民の皆さまには注意を促し、事故の防止につなげることが重要だと考えています」(愛知県警交通総務課)
 
先の愛知県警の言葉にもあるように「〇〇走り」という言葉は全国各地に存在します。その中で名古屋は、大都市だけにことさら悪目立ちしてしまうとも考えられます。加えて「名古屋走り」というネガティブな言葉はインパクトがあり、自虐ネタが好きな名古屋人、名古屋をとかくイジりたがるマスコミ、そしてマイナス要素を前面に出して注意を促そうとする警察など、それぞれの気質や思惑もあって、イメージ先行で広く認知されてしまっているといえるかもしれません。

それでも、名古屋では車が多い分事故の絶対数も多いのは事実。広くて車線が多い道路に、慣れない他県からのドライバーは戸惑ってしまうこともあるでしょう。地元の人たちは不名誉なイメージを払拭(ふっしょく)できるよう安全運転を心掛けていただき、他県のドライバーも十分に注意した上で、名古屋でのドライブを楽しんでもらいたいものです。

<参考>
警察庁「令和6年中の交通事故死者数について
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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