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LGBTQ、子なし、子と絶縁……法的に認められた「親族」がいない人たちの深刻な終活事情

入院や死後のことなどにおいて、親族であることが重要視される日本。LGBTQ、子なし、子と絶縁したケースなど「死後事務委任契約」が必須な人たちの事情について解説します。※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

パートナーでも法的に家族と認められず、死後に会うことさえ許されない…LGBTQの人以外でも「死後事務委任契約」が必須な人たちの事情

死後のことについても親族であることが重要視される日本、どんなトラブルが……。※画像出典:PIXTA

入院時や死後に発生する手続きなどで「親族であること」が重要視される日本。LGBTQ、子なし、子と絶縁したケースなど「死後事務委任契約」が必須な人たちが多くいます。

おひとりさま時代の死に方』(井上治代著)は、ひとり世帯の現代人が密かに気になっている 「死後の大事なこと」について、尊厳ある死と葬送の実現を目指すNPO法人 エンディングセンター理事長である著者が解説。

今回は本書から一部抜粋し、法的に家族と認められない関係性の終活について紹介します。
<目次>

「家族」と認められない壁

日本では、入院や死後のことなどにおいて、親族であることが重要視されています。

親族であれば、無条件に様々なことが許されるのに、第三者が家族として一緒に暮らしていても、法的に同性同士の結婚が認められない限り、第三者扱いされて喪主にもなれない。人の生き死にに関する大事な喪の作業が、親族でないと認められていないのだ。なんと悲しいことか……。

エンディングセンターの「終活大学校」の講座で、中村吉基さん(日本基督教団代々木上原教会牧師・宗教とLGBTネットワーク代表)にLGBTの終活について講義をしていただいたことがあった。

同性カップルの一方が緊急入院した際、もう一方の人が家族とは認められず、そばで付き添うことを許されなかったり、またある人は、パートナーが亡くなられたあと、葬儀に参加することも親族に拒まれたりしたという。

この話を聞いたとき、第三者のエンディングセンターが、契約によって法的に権利を得て、喪主となって死後のことを担う方法を使えば、こういった問題は解決できると実感した。

法律で尊厳を守る方法

パートナー同士、お互いに民法第897条に則って「祭祀主宰者(いわゆる喪主)の指定」をしておけば、法律に守られて第三者でも、葬儀や埋葬、死後事務などを主宰することができます。

また、民法第643条「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」という条文に基づいて死後のことなどを委任契約しておけば、依頼されたパートナー(受任者)が死後のことをおこなうことができます。

ご自身が元気なうちに、死後事務を第三者に委任しておくことも一つの良い方法である。「死後事務委任契約」は、個人や法人といった私人同士の関係について定めた私法上の契約なので、契約内容は当事者間で自由に決めることができる。

子ありでも契約する理由

エンディングセンターでは、2000年から「死後サポート」をおこなってきた。他の団体のように、この事業だけで組織を運営しているわけではなく、継承を前提としない墓の普及活動や「墓友」活動などを通じてサポートもおこなっているので、死後事務委任契約者数は多くはない。契約者の人となりがわかるサポートを心がけ、「ぬくもりのある最期」をモットーとしている。

ところで、死後の諸々のことを託す委任契約をする人たちが、どのような属性なのか、私がおこなった調査結果を紹介することにしたい。

契約者の属性について2024年10月10日現在で集計したところ、未婚・既婚の別でいえば、未婚が45%、既婚が55%と既婚者のほうが多かった。

契約者全体の中で「既婚/子なし」が30%、「既婚/子あり」25%であった。次世代にあたる「子ども」の有無でいえば、未婚・既婚者を合わせると75%の人に「子ども」がいない。

一般的に考えて「子ども」がいれば死後のことを第三者に依頼することもないだろうと考えがちである。しかし、既婚で「子ども」がいても、死後のことを頼む人たちは、25%となった。

それには、「子と絶縁」している人、子どもが海外で暮らしていたり、障がいがあったりするなど「子に頼めない」事情がある人、さらに「子が死亡」してしまったり、「子が女子」で、夫側の墓に入りその墓を守る立場にあったり、「離婚、子に迷惑をかけたくない」といった理由があった。
  井上治代(いのうえ はるよ)プロフィール
社会学博士。東洋大学教授を経て、同大・現代社会総合研究所客員研究員、エンディングデザイン研究所代表。研究成果の社会還元・実践の場として、尊厳ある死と葬送の実現をめざした認定NPO法人エンディングセンターで、「桜葬」墓地と、墓を核とした「墓友」活動を展開している。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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