『いつの間にか仲良くなっている人たちの世界』(野口敏著)では、あなたの身の回りにもきっといる、「いつの間にか、他人と仲良くなっている」人たちがしている小さなコツについてお伝えしています。
今回は本書から一部抜粋し、知らない人と「程よい距離での関係」をつくる小さなサインについて紹介します。
相手が警戒してしまうあいさつ
ある生徒の体験です。仕事から帰ってきたら、ちょうど隣の人がドアを開けて部屋に入って行くところでした。そこで「こんばんは」と声をかけると、ギョッとした顔をされてしまい、都会のあいさつはむずかしいなと感じたのだそうです。これだけ聞きますと、都会ではあいさつするだけで、そんなに嫌な顔をされるのかと思ってしまいます。
しかし話をよく聞きますと、相手がギョッとするのも仕方がないところがありました。彼は隣の人のすぐ近くから、しかも低い声で言葉をかけたといいます。相手は近くから、しかも低い声が急に聞こえてびっくりしたのでしょう。
この場合のコミュニケーションは、5メートル程度離れたところからはじめます。ここからやわらかなアイコンタクトを送ってみてください。
それで相手は「あいさつしてきそう」と感じて、どう対応するか準備するゆとりができます。言葉は何も使いませんが、こうして互いに意思の疎通が生まれているのです。
あなたの視線を感じた相手は、あなたのほうに少し視線を返してくるかもしれません。こうなればもう互いの気持ちは通じています。
そのタイミングで「こんにちは」とか「おはようございます」と声をかけてみましょう。
あいさつする距離は、3メートルほど手前あたりからが適当かと思います。このとき、温かな声が出せたら、2人はもうお知り合いです。
あなたのアイコンタクトと温かな声で安心した相手は、十分準備が整い、あなたに「こんにちは」と返事がしやすくなっています。このタイミングでほほ笑みを送れたら、相手の警戒心は完全に解除されるでしょう。
一度このあいさつをしておけば、次からは緊張もなくなり、気軽にあいさつできるいい関係になれるはずです。
お互い年齢も若く、知らない人との関係に慣れていないようなら、それ以上の会話はしなくてもいいかと思います。現代では急に関係を詰めてくる人は警戒されますから。
温かいあいさつができるようになれば、エレベーターなどで偶然に出会ったときに、少し会話が生まれるかもしれません。そこから先はお互いのコミュニケーション力と、知らない人にどこまで心のドアを開く用意があるかで、関係の先行きが決まります。
マスクはデリケートな問題
もしあなたが感染対策ではなく、顔を隠す目的でマスクを使い続けているのなら、他人と仲良くなれる確率は限りなく低くなります。マスクは表情を消し、声もくぐもった感じになり、言葉がはっきり伝わりません。あなたがどんな気持ちで接しているか、相手は感じ取れないのです。
コミュニケーションと人との交流を優先するのか、他人との間に距離を置いて暮らすことに重きを置くのか。これからは自分が生きるスタイルを決めなければならないでしょう。
「いつ仲の人」たちは法令が変わったその日から、健康に問題がなければマスクを外して暮らしているはずです。
反応が薄い人を前にすると心が折れてしまう
どこにでも1人はかならずいる、反応が薄くて愛想のよくない人。それが上司であったり、仕事上どうしても付き合わざるをえないような立場の人だと、神経を使うものです。とはいえ、その人は声を荒らげるわけでもなく、意地悪をするでもない。ただ表情が硬く、こちらが何か言っても反応が悪いだけなのです。
人間は相手から反応がないと、「私のことが嫌いなのか」「怒っているのか」と受け取ってしまいがちなもの。とくに相手の機嫌を気にしがちな人は、この反応の薄いタイプがとても苦手です。
でも、彼らは決して悪い人ではありません。ただ、感情表現が苦手で、自分が相手に不安を与えていることに気づいていないだけなのです。
だから人間関係ではよく誤解を受けて、つらい思いをしていることが多いのかもしれません。こう聞くと、少し気の毒にもなります。
このタイプの人は、時間をかけてなじんでしまえば反応も出てきますし、仕事でも協力してくれることが多いものです。このタイプと接するときは、決しておどおどしないこと。その態度がその人の神経を刺激してストレスをかけてしまい、余計に不機嫌にさせてしまいます。
はじめはあいさつだけしっかりしておいて、あまり雑談などは持ち掛けないほうがいいでしょう。用事があるときだけ話しかけるようにしてください。
相手が何か言ったら、あなたは「そうなんですか」「わかりました」と反応よく接します。そして相手から得た情報が役に立ったり、サポートを受けた仕事がうまくいったりしたら、かならずその人のところに立ち寄って、「おかげでうまくいきました」「〇〇さんにつくってもらった資料、評判がよかったです」と伝えます。
これなら、このタイプも喜んで対応してくれるでしょう。なじむまでに1年ほどかかる場合もありますので、ゆっくり付き合うつもりでいてください。
やがて相手から「昨日は野球を観に行きましたが、雨にやられてさんざんでした」などと話しかけてくれるようになります。
人間にもいろいろなタイプがいます。すぐに心を開くのが苦手で、あなたにいい対応をしてくれない人もいます。
こんなときは、相手にすぐ自分を受け入れてほしいという気持ちを持たないことです。すぐに自分に心を許してほしいと願わないことです。要求を感じると、人は心を閉ざすもの。どんな人にも人としての特性があり、また事情があります。
あなたが相手に望むことが少なくなったとき、相手があなたに心を許してくれる速度も速まることでしょう。 野口敏(のぐち さとし)プロフィール
1959年生まれ。株式会社グッドコミュニケーション代表取締役。関西大学経済学部卒業。熊本県天草市出身。1989年より「コミュニケーション教室TALK&トーク」を主宰。コミュニケーション指導歴35年を超える。「今日受けた人が今日うまくなる」がモットーの指導には定評がある。大阪淀屋橋、東京有楽町、Zoomでコミュニケーション講座を開き、全国から生徒が絶えない。「話を聞く」「絵が浮かぶように話す」「顔を上げて歩く」「相手を主人公にして話す」など、常に新しい発想をコミュニケーション界に提案している。2024年からは結婚相談所グッドコミュニケーションも運営し、現代の結婚難打開に尽力している。