住宅購入のお金

札幌で注目の「民泊マンション」、投資向きじゃないのに売れている理由

近年、セカンドハウスと収益を両立できる札幌の「民泊マンション」が注目されています。実用と投資のバランスをとった、新しい選択肢について住宅評論家の櫻井幸雄氏が解説します。※画像出典:PIXTA

All About 編集部

近年、札幌にセカンドハウスを持ちたいという声が増えています。なかでも注目されているのが、使わない時は民泊として貸し出せる「民泊マンション」。実用と投資のバランスをとった、新しい選択肢について住宅評論家の櫻井幸雄氏が解説します。

セカンドハウスの話から広がった「民泊マンション」への関心

この7月、筆者は都内の日本橋でセミナーを行った。内容は、札幌への移住やセカンドハウス購入を考える人向けのお話だった。

身の危険を感じるほどに暑くなった夏の東京で、猛暑日が生じるようになったとはいえ、まだ東京よりは涼しい札幌での生活に憧れる人は多い。

首都圏が大災害に見舞われ、長期間不自由な生活を強いられるとき、一時的な疎開先として札幌にセカンドハウスを確保しておくのも悪くない……いろいろな理由で札幌のマンション購入を検討する人が増えている。

そのような人たちを集めたセミナーで質問が殺到したことがある。
「民泊マンションに興味が湧いた」
「民泊マンションについて、具体的な使い方を教えて」

じつはセミナーのなかで、札幌中心地の「民泊マンション」について少しだけ話をした。そこに興味を持つ参加者が多かったのだ。私の話は概略次のようなものだった。

今、ニュースで頻繁に取り上げられる民泊は外国人が迷惑をかけるものばかり。宿泊客が部屋を汚す、1人の予約で大勢が泊まる、周囲の日本人住人が困っている、というような話だ。しかし、札幌中心地で新築分譲される「民泊マンション」は、それとはまったく異なる。

「民泊として運営できるのは年間180日まで」と制限され、残りの日数は所有者がセカンドハウスとして使うタイプの民泊である。

年間180日までとなると、投資目的の購入者にとっては民泊からの上がり(儲け)が少なくて物足りない。しかし、セカンドハウスを手に入れたいと考える購入者にとっては、むしろ好都合となる。

なぜなら、札幌にセカンドハウスを手に入れても、1年フルに活用する人は希だ。普通は、年に半分も利用すれば多いほうだろう。だったら、利用しない約半年を民泊として活用したほうがよいと考える人が多いからだ。

「年180日まで」でも、民泊での表面利回りは年4%を上回ることが多い。だから、ローンを組んで民泊マンションを購入した場合、そのローン返済を民泊の利益で賄える程度となる。

つまり、儲けを出すには至らないが、合理的に札幌のセカンドハウスが手に入るスキームとなる、と説明した。そこに関心を示す参加者が多かったのだ。

「年180日まで」の民泊マンションはルールを守る

北海道には「民泊」が多い。しかし、その多くは古い一戸建てを活用したり、賃貸アパートを借りて、それを又貸ししたりする形での民泊経営。札幌中心部から離れ、その分、宿泊料も安い形態である。そのなかには、1年中フルで経営する民泊もある。

これに対し、新築分譲される「民泊マンション」は、札幌の中心部、すすきのや大通に近い場所に建設される「年180日まで」のルール(※1)をしっかり守る形態。同じ民泊でも中身が大きく異なる。

多くの人は「民泊はどれも同じ。宿泊者が迷惑をかける困った存在」だと思っているが、そうではない民泊があるのだ。

札幌中心部で新築分譲される民泊マンションは、コンサルタント会社に運営委託するのが普通で、民泊業を営む手間はかからない(その分、委託費用が発生する)。コンサルタント会社は正式な手続きを踏んで民泊を行うし、安心できる旅行サイトで宿泊客を集めるので、部屋がひどく汚されたり、夜中も騒がれたりといった迷惑行為が発生しにくい(これから先もまったく起きない、とは言い切れないが……)。

実際に運営されている「民泊マンション」を見学してきたが、コンサルタント会社から「備品の盗難や、人数以上の宿泊、部屋ひどく汚されるといった被害はない」との説明を受けた。そして、住戸内には施錠できるロッカーがあり、オーナーの備品(ゴルフ道具など)がしまわれていた。

セカンドハウスとして自分で使うし、使わないときは人に貸すというやり方が確立されていることを感じた。

※1:編集注釈
法律(住宅宿泊事業法)により、住宅宿泊事業では営業できる宿泊日数が1年間で180日を超えないものと定められている

では、「民泊マンション」に短所はないのか

利点の多い札幌の民泊マンションだが、短所もある。

例えば、「民泊での利益を多くしたい」と考えれば、旅行者ファーストにせざるを得ない。今、札幌のホテルは、時期によって宿泊料が大きく変わる。夏の時期や冬でも雪まつりが行われる時期には旅行者が増え、ホテルの宿泊料金は大きく上がる。そして、閑散期は下がる。

民泊も同様に、観光客が多いときに利用料を高く設定できる。だから、民泊の上がりを大きくしようと思えば、「みんなが行きたいときに貸す」ほうがよい。つまり、オーナーは人気の時期に利用しにくい。もっとも、「人が多いときは行きたくない」という人なら、まったく問題にならないだろう。

もう1つの短所は、「ローンを組みにくい」ということだ。民泊として利用できる住戸は、一般的な住宅ローンを組んで購入することは基本的に不可となる。ローンを組んで購入するときは、事業用ローンとなる。

金融機関によっては、「民泊マンションに事業用ローンを適用する」ことに慣れていないところがある。つまり、なかなか実行してくれないのだ。そのなかにあって、札幌は比較的事業用ローンが利用しやすい場所、というのが、私の認識。これまで、札幌中心部で複数の民泊マンションが新築分譲されており、金融機関も慣れてきたのだろう。

最後の短所は、新規分譲される民泊マンションは数が少ないこと。いつでも買えるわけではないし、複数物件から選ぶということもしにくい。特に、人気の高い2LDK住戸がなかなかみつからない(1LDKが多い)。

以上が、札幌における民泊マンションの実情なのである。

文:櫻井幸雄
住宅評論家。全国で年間200件以上の物件を現地取材し、書籍や雑誌、新聞、テレビなど幅広いメディアで活躍中。著書に、『知らなきゃ損する!「21世紀マンション」の新常識 5000件見抜いた男が教える「見方・買い方」』(講談社)、『不動産の法則 誰も言わなかった買い方、売り方の極意』(ダイヤモンド社)、『買って得する都心の1LDK 借りるのは「負け組」』(毎日新聞出版)など
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