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保険だけでは足りない!? 「生涯医療費2700万円」時代を生き抜く方法はあるのか

【専門家が解説】日本人1人あたりの生涯医療費は、平均2700万円。住宅ローンや教育費と並ぶ大きな生涯支出で、保険だけで十分なリスクマネジメントはできません。コストを減らすための「攻めの健康管理」について、分かりやすく解説します。

中田 航太郎

中田 航太郎

医師・起業家 / 予防医学・予防医療 ガイド

東京医科歯科大学医学部卒業後、救急総合診療に従事。2018年6月に株式会社ウェルネスを創業し予防医療サービス「Wellness」を提供。多くの患者さんと接する中で、防ぎえた後悔をなくしたいと考え「病気になる前にパーソナルドクターと予防する世界」を目指しています。健康管理や予防のために役立つ情報を発信します。

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“保険だけでは足りない”「医療費2700万円」の真実

“保険だけでは足りない”「医療費2700万円」の真実


皆さんは、一生のうちにかかる医療費を想像したことがありますか? 「保険証があればなんとかなる」「高額療養費制度があるから心配ない」と考える人は多いかもしれません。しかし、現実は想像以上にシビアです。
 

もしものとき、いくらかかる? 知られざる「医療費の全体像」

厚生労働省の発表(※令和5年度 医療費の動向)によると、日本の年間医療費総額は47.3兆円、それにともなう1人あたりの医療費は約38万円に上ります。これは年々上昇しており、特に高齢化が進む日本では、75歳以上の「後期高齢者」は1人あたり約96万5000円という圧倒的な医療費負担となっています。

さらに、人生全体でかかる医療費を年代別に積算すると、日本人1人あたりの生涯医療費は平均で約2700万円。住宅ローンや教育費と並び、生涯支出のトップクラスに入る“人生のコスト”です。もっとも、実際に個人が負担するのは、年齢や所得により異なりますが原則2~3割です。つまり現行制度のもとでは、自己負担はおよそ800~1000万円程度と見積もられます。

しかし注意したいのは、この自己負担割合が未来永劫続く保証はないという点です。高齢化が進み、医療・介護の社会保障費が年々増加する中で、自己負担割合や制度そのものが見直される可能性は十分にあります。急な制度改定により、自己負担が3割から4割、5割へと増えれば、家計へのインパクトは計り知れません。「ある日突然、これまでの常識が通用しなくなる」——そんな時代に備え、今から健康への投資と、リスクマネジメントの視点を持つことが重要です。

※(年齢ごとの医療費に、その年齢で生存する人の数(簡易生命表より推定)を掛けて合算した結果、平均で約2700万円という数値に)
 

若い世代こそ要注意! 高齢期に跳ね上がる医療費とそのリスク

高齢期には不調が増え、医療費が高くなるのは自然な流れです。しかし、カギとなるのはその「前段階」にあります。生活習慣病や慢性疾患を防ぐ最後のチャンスともいえる「予防の黄金期」は40~60代。この世代で生活習慣病や慢性疾患の芽を摘めなければ、老後の医療費が一気に跳ね上がる恐れがあります。

例えば糖尿病を放置すると、やがて人工透析が必要となり、年間500万円以上の医療費が発生するケースも。さらに寝たきりや認知症を発症すれば、介護費用まで加わり負担は倍増します。国全体の話ではなく、「自分自身がいつそうなるか」という視点で備えることが必要です。
 

健康は自己責任ではなく、もはや「経営資源」

医療費の問題は、国家財政だけでなく、個人の生活設計そのものを揺るがす構造的リスクになっています。とりわけ現役世代のビジネスパーソンにとって、病気で数カ月の離脱を強いられることは、収入減・キャリア断絶・生活費の逼迫(ひっぱく)といった現実的な打撃に直結します。

これはもはや「健康は自己責任」という言葉では済まされない話です。経営者が社員の生産性や離職リスクを管理するように、個人も“自分の健康を戦略的にマネジメント”する時代に突入しています。

「保険に入っていれば安心」は大きな誤解

「医療保険やがん保険に入っているから大丈夫」と考えるのは、実は大きな誤解と言えるでしょう。多くの保険商品は、入院や手術などの“医療行為そのもの”には対応していますが、通院費や、病気によって増える日常生活費、家族の休職による減収などの、“日常生活の乱れ”まではカバーできません。特に、がん保険でも「初期がん」では保険金が下りないケースや、診断条件を満たさず支払い対象外となる事例も報告されています。

加えて、保険金が振り込まれるまでに時間がかかれば、その間の出費は全額自己負担になります。こうした「隠れコスト」に備えるには、保険だけに頼らず、そもそも病気にならないようにする予防行動が“最大の保険”になるのです。“病気になる前に守る”という発想を持ち、日々の生活習慣を整え、定期的に健康状態を可視化する予防医療が大切になってきます。
 

2700万円は「未来の請求書」。攻めの健康管理で払わない選択肢を手に入れる!

医師として患者さんと接してきた中で、最も多く耳にするのが「もっと早く気づけていれば……」という後悔の声です。がんや心疾患、脳卒中などは治療が長期化し、家族の生活にも大きな影響を及ぼします。

保険に頼るだけではなく、「自分の健康データ」に基づいて行動を変える力を持つこと。これは意識や知識の問題ではなく、リスクマネジメントの一環としての「実践」です。

病気を防ぐ力は、「高価な薬」や「高機能のデバイス」ではなく、日常に落とし込まれた小さな習慣から生まれます。朝の軽いストレッチ、食事の見直し、早めの就寝。それらを「続けられる仕組み」にするためには、外部のサポートや専門家との伴走も非常に効果的です。

病気による医療費、介護費、収入減……それらは全て、将来あなたが「払うかもしれない請求書」です。しかし、戦略的な予防によって、その多くは“払わなくていい支出”に変えることができます。

人生100年時代を健やかに生き抜くために、「健康」は守るものではなく、“攻めて備える”時代へ。あなたの未来を守る第一歩は、今日この瞬間から始められます。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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