責任を果たせ
「ただひたすら、親として責任を果たせと思います。うちの夫、私がちょっと文句を言うと、ふらりと家を出て、電車で30分圏内の実家に逃げていくんですよ。子どもを育てながらの共働きは二人で決めたこと。それなのに夫は協力体制をとってくれない。そりゃクレームもつけますよ。すると実家へ。この繰り返しがずっと続いています」腹が立つわと、カナコさん(42歳)は言う。子どもたちは9歳と6歳になっているが、彼らが小さいときは、夫が実家に逃げてしまうと一人で大変な思いをしていた。
「帰宅して食事のしたくをしているころ、夫が子どもたちを保育園から連れて帰ってくる。その後、食事、後片付け、子どもたちをお風呂に入れて寝かしつけてという一連の作業をなんとか二人でやりくりする。だいたい夫が、何かし忘れたりするのでうっかり文句を言おうものならふらっと出て行ってしまう。ああ、また実家だなと思うから追う気力もわいてきません」
いつか夫を捨ててやる
そうなると翌朝が大変なのだと彼女は言う。一人で朝食の準備をしながら子どもたちを起こして服を着せ、二人連れて保育園へ。一時期は保育園が別だったので、早めに家を出なければならなかった。「夫がいれば夕食の下準備までしてから出勤できるけど、一人だとそこまで余裕がありません。だから夫がふらっと出ていくと、翌日はいつもの倍以上、時間的にも肉体的にも大変になる。そこを分かってないんですよね。心から恨んだこともあります」
夫の母親は、息子を溺愛してきたため、帰ってくれば無条件に喜んでしまう。義父はそれを案じてくれてはいたが、出張が多く、夫もまた父親がいないときに限って実家に行くという計算ができていた。
「今も時々夫は家出しますが、あの大変だった時期を思えば、今はラクです。むしろ夫がいなくなるとホッとするところもある。妻がそんなふうに思っているなんて夫は知らないでしょうけど。家族を大事にしてこなかったツケはこれからちゃんと回っていくからねと思っています」
そう言って不敵な笑みを浮かべるカナコさん。「いつか夫を捨ててやる」と心に誓っていると冗談とも本気ともつかない口調で言った。
幼稚な夫
やはり夫がすぐに実家に戻ってしまうと苦笑するアキナさん(45歳)。最初はプイと家を出た夫に不信感を抱いたが、その直後に徒歩10分ほどの場所に住む義母から電話がかかってきた。「お義母さんは人間ができているので、『ごめんなさいね。うちのバカ息子が戻ってきちゃって。幼稚なのよ、迷惑かけてごめんね』って。子どもたちが小さかったこともあって、義母は入れ替わりに来て助けてくれました。夫は母親に甘えたくて行ったのかもしれませんが、義母は自分の息子のことより私の大変さを気遣ってくれたんです。それ以来、義母とはずっと共闘を組んで仲よくやっています」
思わぬところで義母との固い絆ができたとアキナさんは笑う。義母に免じて「幼稚な」夫となんとか夫婦関係を続けてきたが、「もし義母がいなくなったら、たぶん私たちは保たないと思う」とまで言う。
娘の進路についてバトルに
つい先日も、来年高校生になる娘の進路について夫とバトルになったばかりだ。「娘の好きな道へ進ませればいいだけの話。彼女の人生ですからね。でも夫は美術や工芸関係の高校に行きたいという娘に、『そんな潰しのきかないところはダメ』の一点張り。美術系が好きなのに、理系に行くといいよと言い放ち、娘は目が点になっていた。トンチンカンなこと言わないでよと私まで口を挟んでしまいました」
アキナさんと娘が口々に非難すると、夫はふてくされたように出て行った。「そろそろおばあちゃんから電話が来るね」と娘が言った瞬間、義母からかかってきた。
「いいかげん、幼稚な振る舞いはやめなさいと言ってるんだけどね、と義母はため息をついていました。親が親になりきれず、すぐに母親の元へ行ってしまうのはやはり夫が幼稚なんだと思う。息子という立場でいる方がラクですから。でもそうやって自覚を持てないままの夫に対して、私の気持ちはどんどん冷めていっているのが実状です」
妻の大変さを顧みず、自分だけ無責任に逃げ、母の庇護を求めるかのように実家に戻っていく夫。自分を客観視したら、恥ずかしくないんですかねとアキナさんはつぶやいた。