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トム・クルーズ最新作は好調スタート
5月17日の先行上映に続き、23日から本公開され、週末3日間で動員53万1000人、興収8億4900万円をあげて、週末動員ランキングで首位スタート。この成績は2023年7月21日から公開され、最終興収54.3億円を記録した前作『ミッション:インポッシブル デッドレコニング』の動員比76.7%、興収比79.7%でしたが、先行上映からの9日間の累計では動員103万人、興収16億円を突破。翌週も2位に大差をつけて首位をキープし、累計で動員177万人、興収27億円を超えました(6/1時点)。洋画の実写作品が2週連続で首位を獲得したのは、23年公開の『リトル・マーメイド』(最終興収34億円)以来2年ぶりのことです。翌週は『リロ&スティッチ』に首位を譲り、先行公開から5週目は4位に後退しましたが、累計動員は258万人を超え、今年公開された実写作品(邦画含む)で初の興収40億円を突破(6/15時点)。6週目には動員283万人、興収44億円を突破(6/22時点)し、実写作品で今年初の興収50億円突破も射程圏内に入りました。
邦画の大ヒットが続く一方で洋画「低迷」
コロナ禍の2020年、21年に洋画大作の公開本数が減少し、23年のハリウッドにおける脚本家組合と俳優組合のストライキによる製作中止や公開延期の影響が24年に出て、洋画が“低迷”しているような印象を与えています。また、そんな中でアニメ作品を中心とした邦画の大ヒットが続いたことで、国内での年間興収に邦画と洋画で大きな差がついたことも“低迷”の印象を色濃くしました。2008年から国内の年間興収で邦画の総興収が洋画を上回る、いわゆる“邦高洋低”が続き、特にコロナ禍からハリウッド映画を中心とした洋画の実写作品の“低迷”がささやかれていますが、果たして洋画ファンは映画館で映画を観ることから離れてしまったのでしょうか。コロナ禍前の2015年にVOD(ビデオ・オン・デマンド)の動画配信サービスのNetflixが日本に本格上陸し、そこから着実に加入者数を増やして、全世界で3億人に達した(25年1月時点)ことも大いに影響していると言えるでしょう。
映画館で「観るべき映画」はヒットしている
しかし、洋画や映画館から観客が離れてしまったと判断するのは時期尚早かもしれません。なぜなら、22年5月に公開されたトム・クルーズ主演の『トップガン マーヴェリック』は最終興収135.7億円を記録しており、映画館で観るべき作品が公開されれば、興収100億円を超える大ヒット作が生まれているからです。では、“映画館で観るべき映画”とはどういった作品なのでしょうか。映画会社や興行会社は、Netflixなどの動画配信サービスと、劇場公開と配信のタイミングなどで共存を模索しつつ、差別化にも取り組んできました。共存とは言いつつも、やはり最初に映画館でしか観られない映画の製作と上映です。
例えば、前述の『トップガン マーヴェリック』は1986年公開の世界的ヒット作『トップガン』の続編で、観どころのスカイアクションは、映画館の大スクリーンと高音質で観てこそ作品の迫力と醍醐味(だいごみ)が味わえる作りになっています。究極のリアルを求め、IMAXカメラを戦闘機内に搭載して撮影を敢行した作品でもあり、スクリーンが通常よりさらに大きく、大音量で音質もいいIMAX上映で、これまでの水準を超える没入型の映画体験を提供しました。
さらに、世界中の映画や映画館で採用されている立体音響技術「ドルビーアトモス」上映や、座席が劇中のシーンとリンクして前後上下左右へ稼働などする体感型の4DX・MX4D上映、“極上爆音上映”も人気を集めました。このように“映画館で観るべき映画”とは、人々を魅了し、興奮と感動を与える物語、ドラマの面白さはもちろん、“観る”だけではなく映画を“体験する”楽しさをプラスすることで、動画配信時代に勝ち残りを図っているのです。
割高な鑑賞料金でも観たくなる作品の条件
トム・クルーズはハリウッドのスタジオと一緒になって、 “映画館で観るべき映画”に第一線で取り組んでいる映画人のひとりであり、映画スターなのです。最新作の『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』もIMAX、ドルビーアトモス、4Dなどで上映されており、それらの上映に多くの観客を動員できれば、通常の鑑賞料金よりも割高(プラス料金が必要)なので、興行収入の成績も自動的に上がることになります。同作では、トム・クルーズの超絶アクションが頂点に達したと言っても過言ではありません。黒海を覆う氷の下に沈む破壊された潜水艦に潜り込んでそこから生還できるのか、飛行する複葉機への飛び乗りと操縦席の奪取といった空中アクションシーンの展開は、通常の2D上映版でも観ているこちらは息苦しくなり、平衡感覚が麻痺(まひ)してくるような緊迫感を体験することができます。
2025年公開の邦画では、『ドラえもん』や『名探偵コナン』の劇場版アニメが大ヒットしていますが、洋画では他に『オズの魔法使い』に登場する魔女たちの物語を描いた『ウィキッド ふたりの魔女』、人気ゲームの世界に入り込む『マインクラフト ザ・ムービー』が健闘をみせました。
6月27日には、『トップガン マーヴェリック』を手掛けたスタッフが結集して製作したブラッド・ピット主演の『F1(R) エフワン』が公開。この作品もどのような没中感を体験させてくれるのか、期待が高まります。
アメリカのアカデミー賞やカンヌ、ヴェネチア、ベルリンの世界三大映画祭などでも、Netflixのオリジナル映画が主要賞を受賞することが当たり前のようになりました。いわゆる良質な映画らしい作品が“配信独占”で、自宅で鑑賞できる時代になったということです。そのような時代に入り、映画館で映画を鑑賞する価値とは何なのかが、特にこれからのエンタテインメント作品に問われ、求められているのです。 【和田隆(わだ たかし)プロフィール】
映画ジャーナリスト、プロデューサー。1974年東京生まれ。1997年に文化通信社に入社し、映画業界紙の記者として17年間、取材を重ね、記事を執筆。邦画と洋画、メジャーとインディーズなどの社長や役員、製作プロデューサー、宣伝・営業部、さらに業界団体などに取材し、映画業界の表と裏を見てきた。現在は映画の情報サイト「映画.com」の記者のひとりとして、ニュースや映画評論などを発信するとともに、映画のプロデュースも手掛ける。プロデュース作品に『死んだ目をした少年』『ポエトリーエンジェル』『踊ってミタ』などがある。田辺・弁慶映画祭の特別審査員、京都映画企画市の審査員も務める。