『親の過干渉こそ最強の大学受験対策である。』(菅澤孝平著)では、40~50代の9割が知らない「大学受験のシン常識」についてお伝えしています。今回は本書から一部抜粋し、「指定校推薦」に潜む落とし穴について紹介します。
指定校推薦の残酷な現実
指定校推薦は、「いつまでも枠がある保証がない」という点も大きな不安要素です。一般入試でその大学・学部に受かる人がいる限り、基本的には半永久的に残りますが、次のいずれかの状況になると、指定校推薦の枠はなくなると言われています。
①指定校推薦による入学者しかいない状況が4年続いたとき
②指定校推薦で入学した人が大学を中退したとき
②は、ユーチューバーグループ「コムドット」のやまと氏の退学が話題になったため、知っている人も多いかもしれません。
やまと氏は中央大学附属高校から指定校推薦で上智大学へ進みました。
2023年4月、自身のX(旧Twitter)で上智大学の退学を発表したところ、彼の退学によって「出身校の後輩が指定校推薦で上智大学を受けられなくなる可能性がある」といった懸念の声が上がったのです。
それに対してやまと氏は、「今回の決断の前に可能な限り調べましたが、直接的な言及は見つかりませんでした」とした上で、「もし万が一、僕の退学が原因で今後の推薦枠に影響が出たことがあればその時は志望していた生徒に直接謝罪しにいこうと考えています」と発表しました。
その後どうなったか、真実は分かりませんが、退学届を提出する際、「中央大学附属高校の指定校推薦をなくさないでくれ」と大学に打診し、結果、やまと氏の立場を“退学した人”でも“在校生”でもなく“退学せず大学に関わり続ける人”に切り替えることで落ち着かせ、指定校推薦の枠がなくならなかったといううわさも。
子ども同士の熾烈な椅子取りゲーム
一方、指定校推薦の枠を決める場、つまり高校内でどのようなことが起こっているかというと、実は簡単に決まるわけではなく揉めることが少なくありません。指定校推薦は、評点が上の生徒から順番に決めていきます。
いくつ希望を出せるかは高校によって異なり、一つしか希望を出せないところもあるようですが、第1希望と第2希望を書けるところが多いようです。
ちなみに、評点の順位が高いほうが優先されますので、評点40位の人の第2希望と、45位の人の第1希望が被った場合は、第2希望であっても40位の人が枠を勝ち取れる構図になっています。
よって、成績が良く第1希望に通るという確信を持てている人はスムーズに進むのですが、問題は指定校推薦を取れるかどうか微妙なラインにいる子たちです。
聞くところによると、40位ぐらいの子の中には自ら校内調査をして自分より上位の39人を探し出し、それぞれどの大学・学部を書くかを調査する人もいるのだそう。
微妙なラインにいる子にとっては、自分より上位の子と被らないところを選ぶのがとても大事なのです。
ときには、「私のほうがこの大学へ行きたい気持ちが強いから、あなたは絶対に書かないでね」といった圧をかける子もいると聞きます。
渦中にいるのは子どもだけではありません。
学校へ乗り込み「うちの子はこの大学へ行くためにこれだけ頑張っているので、なんとか通してください」と菓子折りを手に懇願する親もいるそうです。
しかし、あいにく先生には決定権はありません。
指定校推薦をムダにしないリスク管理術
ちなみに指定校推薦で誰を選ぶかを決める際は、その時点で文系にいるか理系にいるかはあまり関係ないようですので、大学から理系・文系を転向する際や、「どうしても理系に進みたいけれど大学入試の数学は苦手」など志向と成績が合致しないときは利用しがいがあるでしょう。私自身、文系の科目のみで1位を取り続けてきて指定校推薦を狙える子から「早稲田の理系の学部へ行きたい」と相談されたら、迷わず指定校推薦をすすめるでしょう。
ただし、指定校推薦を目当てに定期テストの勉強を頑張り続けたとしても、先ほどお話しした通り、指定校推薦の枠はいつなくなるとも限りません。
そう考えると、運もあるかもしれません。
「うちの高校は1位になれば慶應義塾大学へ行ける」といううわさがあったとしても、いざ高校3年生へ上がり指定校推薦のリストが公開されたときに一覧で見つけられず落胆……そのようなことにならないよう、指定校推薦を狙うとしても信じ過ぎることなく着々と一般入試の準備も進めておく。
そういったリスク管理も、現在の大学受験には必要なスキルです。
菅澤孝平(すがさわ こうへい)プロフィール
シンゲキ株式会社代表取締役社長。千葉県鎌ケ谷市出身。高校時代に偏差値32を経験。担任の先生と二人三脚で受験勉強をし、明治大学に逆転合格。その時の経験をもとに、誰かの挑戦に「伴走」したいという思いから、明治大学政治経済学部在学中にオンライン塾事業を始める。2021年、シンゲキ株式会社を創業。著書に『3カ月で志望大学に合格できる鬼管理』(幻冬舎)がある。