34年間にわたり、百貨店のお客様相談室で1300件以上のクレームに対応してきた関根眞一さんの著書『カスハラの正体 完全版 となりのクレーマー』から一部抜粋。学校に届いた保護者からのクレームを例に、一見正当そうに見えても実は別の意図が隠されている「苦情ではない苦情」の見抜き方と、その巧妙な対処法について紹介します。
<目次>
苦情でない苦情
クレーム・苦情が発生するときは原因があり、それを伝える手段として言葉があります。その対応は、原因を突き止め説明をすることになります。クレーム・苦情を申し入れる側は、「嫌な思いをした」「損をした」「差別された」等の被害を感じており、対応としては、補償の問題に発展するもの、弁償するもの、謝罪で済むもの、に分かれます。
なかには、お客様が納得せずに物別れもありますが、これは稀です。どちらにしても、苦情の申し入れには真剣に対応することが基本で、なんらかの解決策はあるものです。
ところが最近、世の中にはもっと別の苦情があることが分かりました。「苦情でない苦情」です。例を使って、説明しましょう。
「なんで、あんな、やぶ医者に診せたんだ」
校内でけがをした生徒の手当てを校医がして、帰宅させたところ、保護者からこんな苦情が来ました。この問題を、読者のみなさまはどう受けとめますか。
お断りしておきますが、学校でもまともな苦情やご意見はたくさんあります。それらの多くは解決されているのです。ここに、例として出したものは、普通の苦情と違い、教師が判断に困るものを提示しております。
この申し入れを受けた担任の先生は、どう説明するのでしょうか。また相談を受けた校長・副校長は、学年主任・担任にどうアドバイスするのでしょうか。
この苦情を受けても、何を言いたいのか、どうしてほしいのか、判断に困ります。たとえ訴えると言われても、謝りようもありません。
このときはまず、「これから、どうしたらよいかご意見をお聞かせください」と応じます。意見を聞くに留めておければ、それに越したことはありません。
クレーム・苦情対応にはいつも、相手の心理を読む必要があります。この場合に考えられる心理はたくさんあると思いますが、ここでは極論を掲示します。
- この家庭は、ここの校医となんらかのトラブルがある、またはあった
- この保護者と校医の夫人の仲が悪い
- 保護者の噂では評判のよくない校医となっている
- 同じ地区に、保護者の近しい関係 (たとえば親戚)の医院が存在する
- そこの医者は、校医になりたがっている。
苦情をくり返す相手にどう挑む?
では、その対応です。しつこく苦情をくり返す相手に毅然として臨むなら、こうなります。「それは申しわけございません。○○医師が"やぶ"だとは知りませんでした。ところで、よろしかったらどんなところが"やぶ"なのか教えてください。学校医として問題があるようなら、しかるべき委員会にはかり検討したいと思います。できる限りくわしく教えてください。
また、充分に注意はしますが、今後ご子息に事故が発生した場合は、そちらで医院を指定してください。そのため、常に連絡が取れるようお願いします。
そして、連絡が取れない場合は、どのようにしたらよろしいのか、できれば書面にていただければ、今後の引き継ぎにも役立ちます」
この程度の対応をしないと、イチャモンのような「苦情」を言ってくる保護者には、効果はないでしょう。
実はこれは、苦情ではないと私は思います。なぜなら、先にも書いたとおり、対応する手段がなく、何もしないでも収まるものだからです。真剣に取り組まないことも、苦情対応の一つの手法だと言えます。
こんな「苦情でない苦情」は、世の中にはたくさん転がっているようです。大事な点は、その申し入れに返事をすべきか否かを判断できる能力をつけておくことです。 関根眞一(せきね しんいち)プロフィール
百貨店に34年間在職し、全国4店舗のお客様相談室を担当。こじれた苦情・やくざ・クレーマー・詐欺師等特殊な客を専門に1300件以上の苦情に対応した。