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子なしで夫が他界。詐欺被害がきっかけで入居した「老人ホーム」か「一人暮らし」か…79歳女性の決断

一人暮らしをしたいけど、「介助が必要になったら無理」と思っていませんか。自分らしく暮らすにはどうしたらいいのでしょうか。今回は、有料老人ホームを退去し一人暮らしを始めた79歳女性の実体験を紹介します。サムネイル画像:PIXTA

執筆者:All About 編集部

老人ホームを退去し、賃貸住宅での一人暮らしを決断

老人ホームを退去し、賃貸住宅での一人暮らしを決断 画像:PIXTA

一人暮らしをしたくても、介助が必要になれば諦めざるをえないと思っている人は多いと思います。ですが、さまざまなサービスや備えについて知ることで、この先の不安に立ち向かうことができます。

【11の成功例でわかる】自分で自分の介護をする本』(小山朝子/河出書房新社)では、介護福祉士資格を持つ介護ジャーナリスト小山朝子さんが、困難を乗り越え一人暮らしを実現している人や、それを支える人の事例を、当事者へのインタビューをもとに再構成し紹介しています。

今回は本書から一部抜粋し、夫婦で有料老人ホームに入居するものの夫が他界、子どももいないことから、ホームを退去するか、一人暮らしを始めるかの選択を迫られた川崎晶子さん(79歳)の実体験をお伝えします。
<目次>

詐欺被害がきっかけに

川崎晶子さんは、3歳年上の夫、徹さんと都内の分譲マンションで暮らしてきました。

川崎さん夫婦に転機が訪れたのは3年前のことでした。あろうことか、夫の徹さんが架空料金請求詐欺に遭ってしまったのです。

詐欺の被害額は百万円単位には及ばなかったものの、晶子さん以上に動揺していたのは徹さんでした。被害に遭ってから、「オレも耄碌(もうろく)したなぁ」とたびたび口にするようになり、「お前のことはおろか、自分自身を守っていく自信がなくなった。老人ホームに入るか」と言い出したのです。冗談かと思いましたが、徹さんの目は真剣でした。

妻は老人ホーム入居に懸念も

一方、晶子さんにはいくつか気になることがありました。

ホームの2人部屋はホテルのツインルームのようなイメージで、これまでの自宅よりは狭くなり、一部屋で夫と2人で生活することに果たして耐えられるのか、ということでした。

加えて、ほかの入居者とうまくやっていけるかという不安もありました。

入居者同士の諍いなどはないと思いますが、ホームのなかで苦手な人がいれば、逃げ場はなく、毎日顔を合わせないように気を遣いながら過ごさないといけないのです。

夫に根負けして

晶子さんは徹さんに根負けして住宅型有料老人ホームへ入居することを決めました。

居住の権利形態は「利用権方式」です。これは各居室や食堂、浴室などの共用部などを終身にわたって利用する権利に対価を支払うやり方で、その対価の全額または一部を前払金として入居時に納めるのが入居一時金です。川崎さん夫婦はこれまで住んでいた分譲マンションを売却し、入居一時金と月額利用料に充てることにしました。

ホーム入居後に夫が他界

ところがホームに入居してから約1年後、徹さんが食事の際にたびたびむせるようになりました。

ホームの看護師からは「受診したほうがいい」といわれ、ホームの近くの病院を受診。晶子さんも同行しました。病院で検査をおこなったところ、重症化しているため、入院治療が必要だといわれました。入院中は抗生物質で治療をおこない、症状は改善しました。

徹さんは退院してホームに戻りましたが、二度目の入院中に亡くなりました。

いずれ夫はホームに戻って生活できると思っていた晶子さんは、しばらく夫の死を受け入れることができませんでした。

自らの意志で一人暮らしを決意

晶子さんはこの先の身の処し方について考えました。すでに入居一時金の支払いは済ませています。また、このホームに入居するときに、これまで住んでいたマンションは売却してしまっているので、戻る家はありません。

いちばん楽なのは、ホームのこの部屋で継続して暮らすという選択でした。

「私のような高齢者の場合は賃貸マンションも借りづらいような話も聞くし、やはりこのままここで暮らすのが安心なのかしら」

夫の葬儀から2か月ほど経ち、晶子さんは妹の智子さんに相談をしました。

智子さんからは、「マンションを売却したときの不動産会社に相談してみてはどうか」と提案されました。

その後、不動産会社の担当者に相談したところ、運よく入居できる賃貸マンションが見つかりました。

この先、いつまで介護を必要とせずに暮らせるかはわからないけれど、今度は自分の意志で決めたいと晶子さんはホームを退所する決断をしました。

新たな生活の始まり

夫が亡くなり、有料老人ホームを退去することを決めてから、次から次へとやることがあり、目の前のことに意識を向けるようにしてきました。ところが賃貸マンションに移って生活が落ち着いてくると、晶子さんは喪失感に苛まれました。

晶子さんは、最近「グリーフケア外来」の診療科を設けている医療機関があることを知り、受診を考えています。グリーフケア(遺族ケア)は、死別の悲しみを抱える家族に寄りそい、立ち直りをサポートすることです。

晶子さんは周囲の力も借りながら、回復を焦らず毎日を過ごしていこうと思っています。
 
小山朝子 プロフィール
東京都生まれ。小学生時代はヤングケアラーで、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。介護福祉士の資格も有し、ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点からテレビなどの各種メディアでコメントするほか、ラジオのパーソナリティーをつとめるなど多方面で活躍。前著『ひとり暮らしでも大丈夫!自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)も好評。日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、All About 介護福祉士ガイド。
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