
「結果がA判定だったから安心」の落とし穴
皆さんは、健康診断や人間ドックを“過信”していませんか? 実は、結果がA判定でも、深刻な病気が潜んでいるケースは珍しくありません。
私はこれまで救急現場からパーソナルドクターまで、さまざまな立場で医療に携わってきました。そこで、健康診断で「見落とされた病気」に直面することは、決して珍しくありません。ある40代の男性は、がんが発見された時には、すでにステージ4の進行がんでした。ご本人は「毎年人間ドックを受けていたのに……」と、ショックを隠しきれない様子でした。
非常に心の痛むことですが、これは現代医療における健康診断や人間ドックの限界を、如実に表している出来事とも言えます。毎年人間ドックを欠かさず受けていた人でも、こうした事態は実際に起きうるのです。
A判定の「安心感」は、健康診断の最大の落とし穴
健康診断や人間ドックの結果を見て「A判定」であれば、「自分は健康だ」と受け取る方が多いでしょう。しかし、医師の立場からすると、これは大きな誤解です。なぜなら、診断結果の「A判定」は、「調べた項目に限って異常が見つからなかった」という意味であり、「病気が存在しない」ことの保証ではないからです。
例えば、初期段階では自覚症状がほとんどなく、腫瘍マーカーにも反映されにくいがんは、人間ドックの標準的な項目では見逃される可能性が十分にあります。一般的な健康診断では見つけにくい疾患の一例を挙げてみましょう。
■すい臓がんや卵巣がん
早期発見が極めて難しく、選択的に画像検査をしなければほぼ見つからない
■脳腫瘍や脳動脈瘤
頭部MRI/MRAを受けていなければ検出不能
■凹凸の少ない早期胃がん
一般ドックで行うバリウム検査では見逃されがち
冒頭で触れた通り、「毎年ドックを受けていたのに、がんが見つかった時はすでにステージ4だった」というケースは、私の患者さんの中だけでも、実際に複数あります。「健康診断では問題なかった」という安心感から、その後に小さな不調を感じても深刻に考えない点は、健康診断の大きな落とし穴とも言えるでしょう。
健康診断・人間ドックが前提にしているのは「平均的な健康リスク」
会社を通じて受けることも多い健康診断や人間ドックは、病気の早期発見や予防に役立つ、優れたツールの1つですが、その設計思想を正しく知ることが重要です。パッケージ化された多くの人間ドックのコースは、「日本人に多い疾患を、限られた予算の中で、標準的な方法でチェックする」ことを目的としています。確かに、糖尿病・高血圧・高脂血症など、よくある生活習慣病をスクリーニングする上では有効です。しかしそれはあくまで「平均的なリスクに対する画一的な対応(ポピュレーションアプローチ)」に過ぎません。本来であれば、一人ひとり異なるリスクや体質に応じて、検査項目をカスタマイズしていくことが大切です。
個々のリスクに対応した検査の例としては、
- 家族に脳卒中歴がある人→脳のMRAや頸動脈エコーを検討
- 家族に濃厚ながん家族歴がある人→一般的なガイドラインでの推奨年齢より早い段階からがん検診を検討
- 飲酒の量が多い人→胃カメラや大腸カメラによる食道や喉を含めた消化器の精密検査を検討
戦略的予防の入り口は、「自分に合った検査選び」
私が提唱している「戦略的健康法」の根幹にあるのが、「健康診断の限界を知り、自分に合った方法でリスクに先手を打つ」という発想です。やみくもに検査の“量”を増やすのではなく、“質”と“的確さ”が問われます。年齢、性別、職業、生活習慣、家族歴、ストレス環境など個々の情報を医学的に読み解き、必要な検査を取捨選択していく。これが戦略的健康法の中核でもあります。
「定期検査で安心」ではなく「戦略的に選ぶ」時代へ
もはや、年1回の一般健康診断や定型の人間ドックだけでは、自分の健康を守りきれない時代です。- 異常なしと言われたけど、なぜか調子が悪い
- 健康診断では測らないようなことが気になる
- もっと深く、自分の健康リスクを知りたい