人間関係

大河『べらぼう』で話題となった“性表現”。「吉原遊郭」を現代の家族はどう受け止めたか

江戸時代の吉原が主要舞台の1つである大河ドラマ『べらぼう』。遊郭やそこに生きる遊女たちを真正面から捉えた物語を、視聴者はどのように受け止めたのだろうか。(サムネイル画像出典:大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』公式Xより)

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合)で、第18回放送分冒頭、画面右下に「番組の一部に性の表現があります」と表記されて話題を呼んだ。性的な表現や、過去の遊郭などをテレビで扱うむずかしさが、その「おことわり」に垣間見える。

公共遊郭「吉原」が舞台の1つ

『べらぼう』は、日本の芸術家として名高い喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴などの浮世絵師や戯作者を世に送り出し、今でいう「メディア」の礎を築いた蔦屋重三郎の生涯を描いたドラマ。舞台は江戸時代、町人文化が花開いた浅草で、当然のことながら吉原は重要な場所となっている。

かつての価値観でいえば、吉原は江戸の文化の最先端だった。3000人の女性が客をとり、中で働く人や出入りする者を合わせると一夜で1万人が動いていた。男と女のさまざまな欲望と夢と希望と失望が乱れ飛んでいただろう。

吉原と聞いただけで「人身売買だ」と拒否反応を示す人もいるのだが、当時の社会状況を考えると、そういう場所ができあがり、全国からそういう場所に売られてくる若い女性がいたのは事実なのである。多くは貧しい家の娘たちで、親は泣く泣く娘を売った。

あるいは、「うちにいるより3食食べられるだけ娘にとってもいいのではないか」と考えた親もいるかもしれない。彼女たちもまた、「私が出ていくことで家族が食べられるなら、それでいい」と納得していた可能性もある。それだけ社会が貧しかったのだし、幕府による庶民への圧政もあったのだろう。今の「性別や性のありようそのもの」の価値観をあてはめて非難しても詮ない話。

全国から集まってくる女性たちの「お国なまり」をなくすために、吉原独特の「ありんす言葉」ができたのだと言われている。それもまたせつない話である。こういう社会状況があったこと、女性たちが「金持ちの遊び道具」になったことは、なかったことにはできない。その一方で、花のお江戸の吉原は、やはりファッションをはじめ、流行や文化の最先端を行っていた。

インティマシー・コーディネーターを導入

このドラマには、NHK大河では初となるインティマシー・コーディネーターが起用されている。これは映像や舞台などで俳優らが身体的接触やヌードシーンを演じるとき、演者の尊厳や心身の安全を守りながら、演者側と演出側の意向を調整する人のこと。アメリカ・ハリウッドでプロデューサーの性加害事件が明らかとなり、その後のMeToo運動につながっていく中、2017年にイギリスでこういうシーンのガイドラインが作成されたのが発端だ。欧米においても、導入に関しては賛否が分かれている。

日本でも映画監督などの性加害問題が起こっていたことが分かり、この制度は2020年から導入されてはいるが、まだ根付いてはいない。

『べらぼう』の初回には、亡くなった遊女たちが全裸で投げ込み寺(浄閑寺)の庭に放置されているシーンがあった。うつぶせとはいえ全裸である。撮影前から、インティマシー・コーディネーターやスタッフの手厚いケアがあったという。

一方で、子どもも見る時間に、こういう放送がいいのかどうかという意見もあったが、吉原は当時の江戸の粋を集めたようなきらびやかな場所であり、その裏には強烈な影もあるという意味での対比が視聴者の心には響いたようだ。

娘ともどもドラマにはまる

毎週、楽しみに見ているというユリさん(46歳)はこう言う。

「『べらぼう』は17歳の娘と一緒に見ています。吉原は公許の遊郭だったことは娘も知っていて、最初は緊張して見ていたみたい。ドラマだと割り切りながらも、そういう時代があったのはきちんと受け止めている。夫は、娘に見せていいのかどうかちょっと迷ったようですけど、私自身はあくまでも歴史の1つであり、なかったことにする方がよろしくないと思っています」

物事には光と影がある、どの立場から見るかによって賛否や善悪は変わる。多くのことは白か黒かではなく、グレーのグラデーションになっている。ユリさんはそういう感覚や考えを娘に持ってもらいたいと言った。

実際に娘と吉原に行ってみて

「吉原があったからこそ、出版文化が栄えたという側面もあったわけですよね。このドラマを見るようになってから、娘と吉原に行ってみたんです。今は面影もあまりありませんが、吉原神社や吉原弁財天など、遊女と関係のある場所は残っていた。同性として無関心ではいられないよねと娘がつぶやいたのが印象に残っています」

きっかけがないと、遊郭について考えることすらなかっただろうとユリさんは言う。そういう意味でも、真正面から吉原を捉えようとしているドラマ『べらぼう』は、今の日本で画期的なのではないだろうか。
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