家事分担とはいかなかった我が家
「私の理想は共働きで家事も分担することだったんです。でも下の子が病弱だったため、泣く泣く会社を辞めました。この子を守れるのは私しかいないと思ったから。その後元気になったから、それについては後悔していないんですけどね」アイカさん(42歳)はそう言う。同い年の夫との間に11歳の息子、8歳の娘がいる。子どもたちは「パパが大好き」だ。
「そりゃそうですよね、普段叱っているのは私。夫は週末遊んだり、時には“怖いママ”からかばってくれる存在。いいとこ取りしているんですから」
パートに出てもワンオペは変わらず
アイカさんは昨年、娘が小学校に入ったのを機にパートに出るようになった。それまでも在宅でできる仕事を少ししていたのだが、オンとオフの区別がつかずに夕飯の支度が遅くなったりもしたため、外に出るようにしたのだ。今は週3回、4時間ずつ接客業で仕事をしている。「私も仕事を始めたから、少しは家事を手伝ってくれるとうれしいなあと夫に言ってみたんです。どうしてこんな下手に出なければいけないのだろうと思いつつ、頼む形で言ってみた。すると『僕は家でリラックスできるから、仕事を頑張れるんだよねえ。アイカのおかげだよね』とあちらもうそっぽい演技をしてきた(笑)。しょうがないかと、家事育児は相変わらずワンオペです」
それでも何とか頑張れるのは、子どもたちの笑顔があるから、そして夫が家事に関して口を挟むことがなかったからだった。
そんな夫がこの数カ月、やけに料理に口を出すようになってきた。
料理上手の友人の妻に感化されたのか
夫が友人の家に招かれているから行ってくると出掛けたのは、1月のことだった。「夫の学生時代からのその友人、不倫がバレて離婚したんですが、その不倫相手と再婚したんですって。私も会ったことがあるので、へえ、よかったねなんて言っていた。そうしたら帰ってきた夫がものすごく興奮しながら、『いやあ、あいつ、再婚してよかったよ。奥さんがとんでもない料理上手でさ』って。なんだか嫌な予感がしたんですよ」
全て手作りのフルコースだったと夫は早口でまくしたてた。新鮮な魚のカルパッチョ、薄切り牛肉を重ねたカツ、ミモレサラダのドレッシングも手作り、そしてなんとパスタは手打ちだという。デザートは2種類、それも手作りだったと夫は声を弾ませた。
「もちろん今日は僕が行ったから、ちょっとかしこまったものを作ったけど、それでも普段からとにかく料理がおいしい、と友人が言うんだって。しかも栄養を考えてくれているから、目いっぱい食べてもある程度、カロリーは抑えられている。実際、その友人は人間ドックに行ったら、前に引っかかっていた数値が改善されていたそうです。私にしてみれば、『へえ、よかったね。それで?』という感じでしたけど……」
嫌な予感が的中
アイカさんの嫌な予感は当たっていた。それ以降、夫は料理にああだこうだと口を出すようになったのだ。「夫はどちらかといえばお子さまごはんタイプ。カレーライスやチャーハンが大好きだったので、手間がかからなかった。でも何を吹き込まれたのか、それからはやたらと栄養がとか見た目がとか言い出して」
もちろん、アイカさんだって栄養については考えている。子どもたちのことを考えれば当然だ。主菜、副菜、味噌汁はマストだと思っている。
「例えば子どもたちの大好きな豚肉の生姜焼きにキャベツの千切り、ポテトサラダ、具だくさんの味噌汁。それで十分じゃないですか? ところがそれを見た夫、『ここに何か1つほしいよな。例えばマグロのぬたとかさ。このままだと魚介類がないじゃん?』って。マグロは高いんだよと心の中でツッコミましたが、『あらあ、それならマグロを買ってきてくれればよかったのに』と返したら夫は黙り込みました」
カレーライスも、サラダとスープがあればよかったのに、今では魚のカルパッチョをつけろと言うようになった。ドレッシングやめんつゆなども手作りならおいしいのになと言う始末。
子どもにも悪影響が
「ついに『そういう面倒なものは自分で作ってよ』と先日、ブチ切れてしまいました。そうしたら『いや、考え直した方がいいよ。やっぱり家族の健康を考えたら、自分で作るのが一番なんだから』って。『だからー、それは誰が作るんですかっていう話。私はもうこれ以上、時間のやりくりができません』と切り口上で言ったら、『それをやるのが家族を愛する主婦の役目なんじゃないの』って。まるで私が家族を愛していないみたいじゃないですか」しかも夫は「ここにおいしいお魚があったら、もっとごはんが楽しいよね」などと子どもをあおる発言も多い。息子は感化されたのか、食卓に座るやいなや「おかずが足りない」とつぶやくこともある。
「腹立たしいことこの上ない。だったらもっと稼いでこいという言葉が出かかっています。次にケンカしたら何を言うか分からないと自分が怖くなっています」
いくら栄養を考えると言っても、完璧は無理。財力や時間的な問題もある。それほど完璧な料理を求めるなら、プロを雇えと言いたいとアイカさんは激しい口調で言った。