どんな学校に行っても、どんな仕事を選んでも、いい人生を歩んでほしい。親ならば誰もがそう願うのではないでしょうか。
そのためには、変化の激しい現代社会を生き抜く上で不可欠な「自分で考え、選択し、行動する力」や、困難に直面しても立ち直る「レジリエンス(精神的回復力)」といった力が必要です。
では、こうした力はどのように育まれるのでしょうか。単に「褒める」「叱る」といった表面的な関わり方だけでは不十分かもしれません。
約20年間、公立小学校の指導教諭として現場に立ち、保護者面談や研修などを通じて延べ1万5000人以上にアドバイスを送ってきた子ども教育の専門家、庄子寛之さんの書籍『子ども教育のプロが教える 自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解』から一部を抜粋し、子どもの「自己決定感」を育み、主体性と適応力を伸ばすための、親の「声かけ」や関わり方のヒントをお伝えします。
子どもの「自己決定感」を育む親の関わり方
「この子はすごい!」と感じた子の親御さんと話してわかったことがあります。とにかく否定しません。周りの子たちとどんなに違っても、周りに合わせるという概念を意図的になくしています。親の思い込みが少ないのでしょう。「周りの子がやっているから、我が子もこうすべき」「うちの子だけみんなと違って、いじめられたらどうしよう」などとは考えていません。
「こうしたほうがいいから言うことを聞きなさい」と押し付けるのではなく、「どんな道を選ぶかで悩んだら、難しいほうを選ぶといいよ」と背中を押します。
「悩んだら難しいほうを選ぶ」は、私自身、大切にしている言葉の1つです。
自分で決めたことを実行することで、「自主性」と「責任感」を育むことができます。親は子どもが選んだ道を尊重する。決断を判断せず、先回りせずサポートするだけです。
失敗しても立ち直る力を育てるには
ベネッセ教育総合研究所の調査によると、「やりたいことを応援してくれる」親だと、子は「失敗しても自信を取り戻せる」と思う傾向があります。つまり、親が応援してくれていると実感している子は、一度や二度の失敗であきらめません。
このようなことを、心理学では「レジリエンスが育つ」といいます。「レジリエンス」とは、困難や危機に直面したときに回復したり、適応したりする能力のことです。レジリエンスは、これからの時代を生きていく子どもたちのために、必ず必要な力になります。
「これやらない?」「あれやらない?」と先回りしている親が多い世の中です。子どもの「やりたい」の芽に目を向け、「これ、やりたいんだけど」と言ってきたら、応援します。
正解を探すのではなく、自分の道を正解にする
また、「自己決定感」が高いと、自分の行動に対してより積極的になります。自己決定感とは、自分の行動や決定が自分自身の意志によってコントロールされていると感じている状態のことです。ここでいう「決定」とは、進路を決めたり、結婚を決定したりといった大きなことだけを指しているのではありません。「お菓子を買う」「公園に行く」「勉強をする」「友達と遊ぶ」など、「決定」の連続です。
こうした場面において先回りをするがために、子どもの可能性を狭めているのです。自主性を尊重し、親が待つ。子どもの自己決定感を育てることが、とても大切です。
自主性を尊重された子どもは、自分の力で行動します。自分で選んだ道を進むことで、自信をもちます。これからの社会で大切なのは、「自分で考え、行動する力」です。
周りを見ているだけでは、正解はわからない。むしろ正解を探すのではなく、自分の道を正解にする――そんな力が求められています。
大事なのは、あなたが思った以上に手を出していることに気づくことです。先回りしてあれもこれもしない。キーワードは「ま、いいや」です。自分の中の「しなければならない」を手放し、これからの時代では、こんな考え方もいいんだなと、日々を過ごしてみてください。
(本記事は、『自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解』より一部抜粋、再編集したものです)
庄子寛之 プロフィール
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 主席研究員。元公立小学校指導教諭。大学院にて臨床心理学について学び、道徳教育や人を動かす心理を専門とする。「先生の先生」として、ベネッセ教研の最新データを使いながら教育委員会や学校向けに研修を行ったり、保護者や一般向けに子育て講演を行ったりしている。