新しい組織・キャリア論を探求する、安斎勇樹さんの著書『冒険する組織のつくりかた──「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』では、多様なメンバーが集まるチームで問題解決を進める際の重要なポイントを解説しています。
今回は本書から一部抜粋し、トラブル発生時に陥りがちな罠と、チームの多様性を活かして本質的な課題を設定するための具体的なステップについて紹介します。
<目次>
トラブル時にリーダーがまずすべきこととは?
チームに不測の事態やトラブルが発生した場合であっても、すぐに「解決策」を話し合ってはいけません。リーダーが率先して定例ミーティングや1on1などの時間を使って、メンバーそれぞれが問題をどのように解釈しているか、その「景色」をヒアリングするようにしましょう。
個々の多様性が活かされているいいチームほど、問題の解釈は驚くほどバラバラになります。
異なる景色をテーブルの上に載せて、みんなで「解決すべき課題」を絞り込んでいくやり方が必要になります。
冒険する組織は、個人の感情や多様性をどこまでも大切にします。
しかし、そうしたバラバラな個人が集まっているチームだからこそ、問題の解釈の「違い」を入念にすり合わせるステップを大事にするべきなのです。
たとえば、会員制のウェブサービスを展開する企業の例で考えてみましょう。
これまで堅調に会員数を伸ばしてきたものの、突然、他社から類似サービスがリリースされた影響で、自社サービスを退会する古参会員が増えているとします。
社内には不穏な空気が漂っている一方、期初のスタートダッシュのおかげもあって、さしあたって今期の会員数目標は達成できそうな見込みです。
メンバーが見ている「景色」はバラバラ?
この状況をどう解釈するかは、メンバーによってさまざまでしょう。いきなり解決策のアイデア出しに入るのではなく、まずはまとまった時間をとり、みんなの解釈を共有したうえで、チームとしての意味づけをすり合わせていくべきです。
こういうときには、まず「率直にこの状況をどのようにとらえているのか?」「なにが問題だと考えられるのか?」「そもそもこれは問題なのか?」などについて、メンバーの意見を収集・交換します。
あなたがチームのリーダーであれば、自分なりの仮説を構築しながら、並行して1on1の場などでメンバーごとの「景色」を取得していくといいでしょう。
意見が出ないようであれば、自分の生煮えの仮説を提示して、「自分はこうとらえているのだけど、もし抜け落ちている視点や、ほかの仮説があれば遠慮なく教えてください」などと意見を募るのもアリです。
その過程を通じて、自分たちが向き合うべき「問い」の仮説を探っていきます。
具体例:「問い」を立ててチームの方向性を定める
メンバーA「昔から使ってくれている会員が流出!? ただごとじゃないですね」↓
【問い】なぜ古参会員が流出しているのか?
メンバーB「このままだと来期目標の達成が危ういですね。対策すべきでしょうか?」
↓
【問い】どうすれば新規会員を獲得できるか?
メンバーC「他社に惑わされなくてもいいのでは? 気にせず、自社サービスを磨いていくべきだと思います」
↓
【問い】なにをサービスの独自性にしていくべきか?
メンバーD「当期の目標達成は見えているんだし、別に慌てなくていいじゃないですか」
↓
(問題認識なし)
このように、同じ状況下であっても、見えている景色はメンバーごとに大きく異なるものです。
自分たちが取り組むべき「問い」は何か?
リーダーの仕事は、こうした多様な解釈を踏まえて、自分たちが取り組むべき「問い」を絞り込んでいくことだと言えます。「古参会員が退会している理由を調査したい。その理由次第では、古参会員に戻ってきてもらえるようなキャンペーンなどを試すべきではないか」
このケースでは、リーダー自身もこんなふうに考えました(メンバーAに近い意見ですね)。
最初のうちは内心焦っていたのですが、ほかのメンバーの意見も聴いていくうちに、「たしかに、自分たちのサービスに自信を持つべきだ」と落ち着きを取り戻し、次のように「チームの課題」を設定しました。
事前に「目線合わせ」のプロセスがあったことで、チームメンバーはこの課題に共感・納得して、前向きに取り組むことができました。【チームの課題】「なぜ古参会員が流出しているのか?」を早急に調査しながら、並行して「自分たちのサービスは、なにを独自性として打ち出していくべきか?」について改めて話し合い、これを再定義すること
チームで問題を解決していくうえで重要なのは、あいまいな問題を「明確な問い(=課題)」へと落とし込んでから「答え」を出すこと、つまり、つねに「課題解決」を意識することなのです。
安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)プロフィール
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO。1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。組織づくりを得意領域とする経営コンサルティングファーム「MIMIGURI(ミミグリ)」を創業。資生堂、シチズン、京セラ、三菱電機、キッコーマン、竹中工務店、東急などの大企業から、マネーフォワード、SmartHR、ANYCOLORなどのベンチャー企業に至るまで、計350社以上の組織づくりを支援。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。東京大学大学院 情報学環 客員研究員。