自分の経験が絶対だと思っていない先輩
「私の部署にはすてきな女性の先輩がいます。彼女は離婚して、一人で2人の子どもたちを育て上げた人。今、50代で部長ですが、社内の他部署の人たちからも『いいなあ、おたくの部署は』と言われるくらい好かれています。彼女のすごいところは、自分の経験をひけらかさないところ。実は私も昨年、離婚してシングルに戻ったばかり。9歳の娘と二人暮らしなので、いろいろ部長に相談したんです。『私の経験なんて今の時代には役に立たないと思うけど』と言いつつ、生活上の工夫や子どものメンタルケアを教えてもらいました。自分の経験を絶対だと思わず、『今の時代はこうなんじゃない?』という客観的な視点が参考になりましたね」アキコさん(42歳)は笑顔でそう言った。入社時から現部長のことは見てきたが、いつでも穏やかで、誰に対しても公平中立でものを言う。部下のためなら上司にも意見をするのは今も変わっていないという。
相手に敬意を持っているかどうかが重要
「徒党を組まないのも彼女の特徴かもしれません。上司にものを言うときも個人で言うんですよね。一時期、セクハラなどの件でいろいろ社内が不穏だったんですが、彼女は私たちから丁寧に話を聞き、話した人間が特定されないように気を遣いながら会社と交渉してくれた。途中から女性社員たちが声を上げ始めたのは、彼女が一人で頑張っているのを見ていたから。彼女を否定するような男性役員たちもいましたが、それは完全にスルーしていました。胆力があるってこういう人のことを言うんだろうなと思いましたね」同世代でも、誰もが彼女のように好かれているとは限らない。他部署の女性課長の中には、離婚した女性部下に「あなたが夫を立てないから離婚されたんじゃないの?」と言い放った人もいるという。当然、彼女は女性部下たちから四面楚歌状態だ。
「女性管理職が少ないからつい比較されますが、性別の問題ではなく、人として相手に敬意を持っているかどうかが重要だと思います。それが人間関係のベースですものね」
古い価値観を振りかざすと嫌われる
誰もが自分の人生を否定されたくない。自分が生きてきた時代の価値観を非難されるのも嫌だろう。だが、明らかに時代は変わっている。若い者におもねるのではなく、現状を冷静に見極めることが必要だ。アリサさん(38歳)はこう言う。「男性の方が古い価値観にがんじがらめになっていることが多いと思う。女性はしなやかにアップデートしている。それでも中にはいますよ、『私たちの時代はね、男性からのむちゃぶりも笑ってかわしたの』『男の見栄を利用して、うまく生きていけばいいのよ』なんていう女性の先輩たちが。まあ、それも1つの生き方、処世術かもしれないけど、それじゃいつまでたっても男女の関係性、職場における地位は変わらない。私たちは対等であることを求めているんですけどね」
男性を手のひらで転がすような女になればいいのよと言い放った50代の先輩に、「夫婦間のような個人的な関係なら、それでもいいかもしれませんが、職場でそういうことをやっているようではいつまでたっても女性の社会的地位は低いままだと思います」とアリサさんは言い切った。
「それからはその先輩、聞こえよがしに『平等だの対等だの言ってる女に限って、仕事ができないのよ』『面倒だわね。女が女の足を引っ張るのよね』などと言うようになったんですが、それはこっちのセリフですよね。でも彼女は本当にそう思っているみたい。それが今の時代、どうしておかしいのか説明しても分からないでしょうし、分かろうともしないでしょう。だから誰も何も言わない。そうすると彼女はますます自分は正しいと思っちゃうんです」
「あの人たちには言っても無駄」
彼女に同調する女性たちがいるのもまた、アリサさんにとってはやっかいだ。だがある日、男性の上司に言われた。「あなたが悔しい思いをしているのは分かっている。でもあの人たちには言っても無駄なんだよ。だからもう少し我慢してほしい」と。
「いずれ配置転換や定年などで辞めていく人たちだから、ということなんでしょう。分かってくれる上司がいるから、なんとか我慢できていますけどね」
新しい価値観が必ずしも正しいとは限らない。古い価値観も同様だ。さらに、「正義」が人に幸せをもたらすとも言い切れない。
「俯瞰することも重要ですよね。彼女は視野が狭い、半径5メートルくらいしか見てない。私はああはならないようにしよう、後輩たちがスイスイ進んでいけるように尽力しようと改めて思います」
反面教師もまた必要なのかもしれない。