さっぱりしているかと思いきや
義母はもともとさっぱりした性格だと、アミさん(43歳)は思い込んでいた。離れて住んでいるときは確かにそうだったのだ。ところが3年前、義父が亡くなり、一人暮らしとなった義母を夫は「このままにしておけない」と言い張った。「義母は一人暮らしをすると言ったんですが、夫が強硬に『うちで面倒を見る』と連れてきてしまった。夫は一人っ子なので、母親を見捨てられないと思っていたんでしょう」
アミさんと同い年の夫との間には10歳になる一人娘がいる。共働きで頑張ってきて、4LDKの一軒家も手に入れた。家族3人がそれぞれ自室を持っても一部屋余る。夫は母親の部屋があるじゃないかと強行突破した。
「当時、義母は70歳。自宅はもともと借家だし、お金もないけど年金の一部を食費として入れるということで同居が始まりました。うちは夫婦ともに出社、子どもは学校だからルーティンは変えられない。朝昼の食事は自分でやってほしいと言うと『もちろん、いいわよ』と。だからうまくいくかなと思ったんですが」
こんなことを言う人だったとは……
朝はともかく忙しいとアミさんは言う。朝食の準備をしながら、夕食の下ごしらえをし、その間、夫は自分とアミさんの弁当を作る。娘はコーヒーメーカーを操作する。家族3人で一気に動いて食べて出かけていくのだ。「当時、義母は起きてきてそれを見ながら、キッチンでダイニングテーブルに座っている。そんな感じでした。そこで夫が『僕らが出かけてから、お母さん、ゆっくりごはんを食べれば?』と言った。すると『分かった。私はのけものっていうことね』って。あれ、そんなふうに言うタイプだったかなと思いましたが、すでにそこから齟齬(そご)が生じていたんでしょうね」
朝のスムーズなルーティンを乱されたくなかっただけだが、義母は仲間はずれにされたと思ったのかもしれない。
手伝ってはくれない
義母は自室の掃除をし、自分の分の洗濯はするが、それ以外は手を出さない。ただ、夕方以降は家にいてくれるので学童から帰ってきた娘が1人で留守番をすることはなくなった。それはとてもありがたいのだが……とアミさんは顔を曇らせる。「私がどんなに忙しくても、夕食の手伝いは一切してくれない。まあ、いいんですけど。好き嫌いを聞いたら、嫌いなものはないというから3人分を4人分にして作っていたんですが、どうやら葉ものやキノコ類、貝類は好きじゃないみたいで。黙って残すんですよ。だから嫌いなら嫌いと言ってほしいと頼んだら『いいわよ、気にしなくて』って。焼き魚も残すので、嫌いですかと聞いたら『きれいに食べられないから』と。家での食事なんだからきれいじゃなくてもいい、身だけ食べて残してもいいからと言うと、みっともないからって。誰にみっともないのか、イラッとしましたね(笑)」
そこで身だけほぐして出したら、きれいに食べた。それ以来、義母の焼き魚は骨を外して、身だけ出すようにしているが、手間がかかることこの上ない。
「夏みかんなども実だけきれいにとらないと食べないんですよ。どれだけお嬢なんだという話です。食べ終わると、お皿も置きっぱなしでさっさと自室へこもってしまう。夫に『コーヒーでも飲まない?』と言われるとリビングに残るんですが」
プライドの高さが邪魔をして
多分、義母はかまってほしいのだ。それはアミさんにも分かっている。だがアミさんは仕事と家事と娘のことで手一杯。夫も残業が多いので、なかなか母親の話し相手にはなってやれない。「どうやらプライドの高い人なんですよね。時間があるなら地域のサークルにでも行ってみたらと地元の広報紙を渡してみたんです。いくつか顔を出してみたらしいけど、結局、どこも続かない。近所の人から、『お宅のおばあちゃん、体験で来たのはいいけどなじめなかったみたいね』って。どこか人を見下したような態度をとるらしくて。義母がどんなトラウマやコンプレックスを抱えているのかは分からない。夫に聞いても分からないし」
ただ、義母のご機嫌をとっている時間はないとアミさんは言う。
「彼女を見ていると、つくづく思いますよ。自分の生活を充実させるのは自分自身なんだ、と。他人に何かを期待していては事態は進まないんだ、と。私自身の老後についても考えさせられます」
つまらないプライドは捨てた方がいい、楽しいことを求めて生きるしかないと、アミさんは言う。どこまで大きな衝突を回避させながら生活していけるのかが、今の課題だと彼女は小声でつけ加えた。