この論調は、「貯蓄型保険などの保険で資産運用が可能」ではあるが、「投資(資産運用)は投資用の資金で運用」し、「保障のための保険(商品は主に掛け捨て保険などを指す)にかける資産」とは別に用意するべきで、保険商品(主に貯蓄型保険など)で資産運用はするべきではない、というような要旨です。
確かに、一般的な給与所得者向けのファイナンシャルアドバイスとしては、投資と保険を分けることでコストを抑え、資産形成の効率を高めるという主張には合理性があります。しかし、それは果たして富裕層、特に経営者や医師のような高所得層(ここにはアッパーマス層上位~準富裕層=世帯の純金融資産保有額が3000万~1億円の方も含みます)にも当てはまるのでしょうか?
結論から言えば、私は必ずしもそうではないと考えます。むしろ富裕層にとっては、「投資と保険を分けるべき」といった一般論をうのみにすることで、最適な資産形成の機会を逃してしまう可能性があります。本記事では、なぜ富裕層にとって貯蓄型保険が有効なのか、その理由を解説します。
一般論が前提としている「平均的な所得層」と「富裕層」には違いがある
インターネットやYouTubeの情報は、年収300万~500万円のボリュームゾーンの所得層を対象に書かれることが多く、この層にとって「投資は投資、保険は最低限の掛け捨てでOK」という考え方は合理的です。しかし、経営者や医師といった富裕層は以下のような“特有の課題”を持っていると考えられます。
・課題1:経営者の場合、長期的な安定資産の確保が必要
不安定な事業収益や将来的な所得変動に備え、安定した資産を形成し、その上で自身で退職金を用意していく必要がある。
・課題2:医師の場合、退職金の確保が必要
勤務医・開業医問わず、一部の医師を除いては退職金がない場合がほとんど。自身で用意する必要がある。
・課題3:税金対策の必要性がある
高利益率の法人や高所得者は税負担が大きいため、適切な税金対策をしながら資産形成していく必要がある(違法な脱税やグレーなものには引っかからないように、選別が必要)。
・課題4:相続・事業承継対策の必要性がある
海外と比べても極端に高い相続関連税などに対応する必要がある。
●富裕層は「投資」も「貯蓄型保険」もどちらも支払える
こうした“富裕層特有の課題”を考慮すると、保障である保険と投資を分ける必要はなく、貯蓄型保険も組み合わせて資産形成していくほうが課題解決もつながり、得策です。
そもそも富裕層は保有資金的に「どちらかを選ぶ」必要がなく、両方のメリットを享受できる立場にあります。
「投資は投資、保険は保険」と切り分けるにはデメリットもある
富裕層が投資と保険を完全に切り分けることで、以下のようなデメリットが生じます。「掛け捨て保険に入ること」そのもののデメリット
掛け捨て保険の場合、何もなければ当然お金を捨てるわけです。月に1万円でも年12万円、30年で360万円になり、そのお金はその人の資産からは消えてなくなってしまいます。
投資性の資産、貯蓄性の保険、どちらも保有する余裕がある富裕層が、「お金を捨てる保険」にわざわざ入る必要がないと言えます。
また、掛け捨て保険は保険会社・代理店の利益率が非常に高い保険でもあります。いい人のような顔を装って「貯蓄の保険に加入されていますが、保険料高いですよね。掛け捨てにしたら月に1万円で済むんですよ」と言いながら、高利益率の終身払い医療保険と一緒に進めてくるFP(ファイナンシャルプランナー)が多いですが、そういった方は一般層向けだと考えましょう。
医療保険(ほぼ全てが掛け捨ての保険)のCMがなぜ多いのか、貯蓄型保険のCMがなぜ全く流れていないのか、その理由もぜひ考えてみてください。
投資だけでは、将来の総資産額が確定しない(下落局面リスク)デメリット
ここ数年、新型コロナウイルスが流行し始めたばかりのタイミングを除くと、相場は大きく上がり続けてきたため、オルカンなどの「○○に投資すれば○○年後絶対に億り人になれる」といった楽観的な論調が目立ちます。
長い目で見れば、米国株式などで上昇し続けてきた実績はあるものの、実績と今後の相場変動は大きく異なる可能性もあり、誰にも予測できません。下落時に狼狽(ろうばい)して投げ売ってしまうなど、損をしないとは絶対に言い切れないのです。投資だけで確実にいくら貯まる・資産を大きくできるというものでは決してないことを、しっかりと理解する必要があります。
保険(リスクマネジメント)不足のデメリット
若いうちの死亡保障・将来の老後資金・老後の介護・医療費リスクを考慮すると、生命保険をはじめとした各種の保険を活用する必要があります。特に全てを投資に回してしまった場合、若いうちの死亡・障害リスクに全く備えられず、万が一の際に遺族が苦しむ可能性があります。
適切な死亡保障を、合理的判断による掛け捨て保険で用意する場合にはいいと思いますが、「投資と保険を分けたい」という方のほとんどが「保障」を軽視している傾向にあるように思います。
適切な保障がかかっていない(見て見ぬふりをしている)というのは、家族がいる方などは特にですがリスクを放置しているだけなので、真剣にリスクと向き合い、保障を検討したほうがいいでしょう。
貯蓄型保険の有効性
こうしたデメリットを踏まえると、特に富裕層にとっては「投資と保険」を分けずに貯蓄型保険を活用しながら資産形成が必要と考えられます。一方で「貯蓄型保険=コストが高いから避けるべき」という意見もありますが、これについてはどのように考えるべきでしょうか。実は富裕層にとってはむしろ積極的に活用するべき金融商品です。
(1)掛け捨てではないことそのものの有効性
加入数年以内に解約したら大きくマイナスですが、長期的な計画を立てて積み立てる場合は支払い保険料よりも解約返戻金が大きくなるケースも多々あります。保険に守られながら、結局将来退職金のように使えることそのものがメリットと言えます。
(2)法人の場合、キャッシュフローの安定化・利益の繰り延べできる
事業収入が不安定な経営者にとって、貯蓄型保険は将来的な資金の確保に役立ちます。いわゆる簿外資産として保有できる資産になります。また法人契約の生命保険を活用することで、利益の繰り延べが可能です。
●富裕層は同じ保障を持つなら「資金効率のいい方法」を選ぶべき
必要な保障額は人それぞれですが、万が一の際に保障が不要なケースはまれです。お金に余裕があるのであれば、掛け捨てではなく、お金が貯まる保険を活用するほうが、資金効率は圧倒的に良くなります。
「投資と保険は分けるべき」は、あくまで一般的な所得層に向けたアドバイス
「投資と保険は分けるべき」というのは、あくまで一般的な所得層に向けたアドバイスであり、富裕層には必ずしも当てはまりません。富裕層は「投資と保険のどちらかを選ぶ」という思考になる必要がなく、ネット記事に踊らされず「どちらも支払えるなら、支払ったほうが将来の貯蓄額は大きくなる」という単純な事実に気付くこと(=自身で考えること)が重要です。必要な保障を確保しつつ、余裕資金を最も効率的に活用するためには、貯蓄型保険を適切に組み込むことが合理的な選択となるケースも相当な割合であることは事実と言えます。
よって、一般論をそのままうのみにせず、自身の資産状況やライフプランに合わせた最適な金融戦略を考えることが重要です。富裕層は安易に掛け捨て保険に誘導する経験の浅いFPを避け、能動的かつ、合理的に選択することをお勧めします。