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「タワマンへの配達はつらい」問題を解決する救世主現る!?手ごわい“配達の難所”をどう乗り越えるのか

厳重なセキュリティーや少ない宅配ボックス、限られた荷さばきスペースなど、その環境から配送ドライバーの負担が増えている「タワマン」への配達。まだまだ解決のハードルは高く、一筋縄では行きません。一方で新しい取り組みが進み始めています。

執筆者:All About 編集部

タワマンならではの配送課題をどう解決する?

タワマンならではの配送課題をどう解決する?

都心の一等地に天を衝くように建設されるタワーマンション(以下、タワマン)。高層階から望む風景には目を見張るものがあり、居住することにステータスを感じることも。一方、タワマンは幾重もの厳重なセキュリティーや、エレベータの待ち時間などによって館内の移動時間がかかるなど、“利便性”で課題を抱えている側面があります。こうした課題は入居者だけでなく、「宅配のラストマイル」においてもネックになっています。

前回はタワマンに潜む“配達の難所”についてお伝えしました。本記事ではこうした課題を解決する取り組みについてお伝えします。

【前回の記事「『一体どうしろと?』宅配業者を悩ますタワマン“配達の難所”」はこちら
 
<目次>
 

タワマンにおける固有の配送課題

居住者の安全を確保するために設置された厳重なセキュリティーをはじめとして、タワマンには以下のような配送上のハードルとなる特有の課題があります。

・強固なセキュリティー
・業務用エレベータの不足と移動に時間がかかる
・宅配ボックスの不足
・置き配が困難
・配送用トラックの駐車スペースや荷さばきスペースの不足

こうした複数の要因が絡み合うことで、タワマンへの配送には極めて多くの時間や負担がかかっています。また、1つの荷物を配送するにも30分かかるなど、増加する荷物を配送ドライバーがさばききれない状況も発生しています。

そんな中、物流の2024年問題では“ラストワンマイル”の課題が世の中にも広く知られることとなり、国や企業も具体的な対策に取り組み始めているのです。
 

荷さばきの駐車スペース設置の制度改正

2024年11月に行われた国土交通省の検討会では、都心部のタワマンにおける荷さばき用駐車施設が極端に不足していることが指摘されました。一棟当たり約1400戸が入居するツインのタワマンでは、一日当たり300~400個の宅配便が配送されるそうです。一方、敷地内の荷さばき用駐車施設は一棟に2台分ほどしか確保されていないことがほとんどです。

もし空きがなければ、ドライバーは遠方のパーキングにトラックを駐車し、そこを起点とした配送が必要になります。配送先までの移動距離と時間が長くなるだけでなく、離れた場所から重い荷物を運ぶためドライバーへの負担は大きくなるため、場合によっては路上駐車もせざるを得なくなることも。配送効率が低下する深刻な課題に直面しているのです。
 
こうした状況を改善するため、国土交通省は新たな対策を打ち出しました。これまで商業施設や事務所にのみ適用されていた、荷さばきのための駐車施設の設置義務が、タワマンにも拡大されることになりました。この制度改正は2025年3月に公布、2026年4月に施行され、新設のマンションには、荷さばきのための駐車施設の設置が求められることになります。配送効率の向上に貢献すると期待されています。
 

マンション内の配送の救世主が現る!?

現在、多くのタワマン内の配送は配送ドライバーが行っています。しかし、エレベータの待ち時間や時間がかかる館内移動、再配送の負担などが発生したりしています。こうしたことからマンションの外部と内部の配送の担当を切り分ける取り組みが進んでいます。
 
2024年、日鉄興和不動産、ソフトバンクロボティクス、日建設計、日建ハウジングシステムの4社は、マンション内の配送にロボットを活用する実証実験を行いました。この実験では配送ロボットを導入し、マンションの玄関から各世帯まで、フードデリバリーにおけるロボット配送の有用性が検証されました。この取り組みではフードデリバリーのみならず、宅配荷物の配送負担の削減や効率化にも期待が持たれています。

もし、人手ではなくロボットが配送を担えれば、ラストワンマイルの課題は解決に向けて一歩前進するのではないでしょうか。
 
また、大和ハウスグループの大和ライフネクストでは、「マンション内配送サービス」の実証実験によって、効率的な配送と再配達ゼロを目指しています。この取り組みは、マンション内の配送を、“マンション管理員”が行うことがポイント。実証実験には日本郵便、ヤマト運輸、佐川急便の各社が参画しています。

具体的には、宅配各社から配送された荷物はマンション管理員が一括して受け取り、マンション内の専用倉庫に納品されます。その後、マンション管理員が、宅配各社に代わって各住戸に荷物を配達。居住者の不在時においても、宅配ボックスや置き配の活用によって、効率的な配送と再配達ゼロを目指しています。
  

タワマン内部にも物流センターができる?

タワマン内に“物流システム”を構築しているのが、三井不動産による取り組みです。大規模なオフィスビルでは、ビル内に物流センターを設置し、荷受け、館内の配送、集荷などを一括して行うことでオフィスビル内の物流の効率化を実現しています。三井不動産では、オフィスビルの仕組みに近しいマンション内の物流システムを構築することで配達効率を向上させています。
 
この「マンション内物流システム」には3つのポイントがあります。

1つ目は「配送集約システム」です。マンション共用部に宅配スタッフを常駐させることで、宅配各社からの荷物を一括で受け取り、まとめて各住戸へ配達することで、配送効率を向上させています。
 
2つ目が「進化したインターホンシステム」です。宅配スタッフの携帯電話から各住戸のインターホンへ直接連絡できるよう改良することで、在宅確認から配達までの時間を短縮しています。従来はエントランスのインターホンからしかできなかった在宅確認が、宅配スタッフの携帯電話から可能となり、配送業務がスピードアップします。
 
3つ目が「改良された宅配ボックス」です。すでに荷物が入っている宅配ボックスに追加で荷物を入れられるようにすることで、限られたスペースを最大限活用できるようになっています。宅配ボックスの満杯による再配達を減らし、配送効率の向上を目指しています。
 

タワマンの配送課題を解決へと導く

宅配のラストマイルで大きな課題となっているタワマンの配送問題。まだまだ解決のハードルは高く、一筋縄では行きません。一方で新しい取り組みが進み始めています。

国が進める荷さばきスペースの確保や、最新技術を活用した配送ロボットの導入。さらに、マンションのスタッフが配達を手伝ったり、建物の中に物流センターを設けたりする取り組みも始まっています。

このような1つひとつの取り組みが、タワマンの配送課題を解決へと導いているのです。

<参考>

 

【この記事の筆者:蜂巣 稔】
【この記事の筆者:蜂巣 稔】
物流ライター。外資系コンピューター会社で金融機関・シンクタンク向けの営業、輸出入、国内物流を担当。その後2002年から日本コカ・コーラにて供給計画、在庫適正化、物流オペレーションの最適化などSCM業務に18年以上従事。2021年に独立。実務経験を生かしライターとしてさまざまなメディアで活躍中。物流、ビジネス全般、DXやAIなどテクノロジー領域が中心。通関士試験合格、グリーンロジスティクス管理士。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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