「宇宙を活用した技術は現代を生きる私たちにとってなくてはならない存在」と言うのは、宇宙ビジネスメディア「宙畑」編集長の中村友弥さん。今回は中村さんに、宇宙旅行にかかる費用について解説してもらいます。
※本稿は『宇宙ビジネス』(中村友弥著/クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋・編集したものです。
宇宙旅行にはいくらかかる?
宇宙旅行には、その高度と目的地に応じていくつかの種類があり、金額も大きく異なります(今回は宇宙旅行の種類や移動手段としてのロケットを想定)。まず、すでに実現している宇宙旅行は3種類あります。1つ目は、宇宙飛行士も滞在するISS(国際宇宙ステーション)への宇宙旅行。2つ目は、ISSへの滞在はしないものの、ロケットで宇宙空間まで打ち上がり、宇宙船の中で数日間滞在、宇宙遊泳も経験して、地球に帰還するという宇宙旅行です。3つ目は、宇宙空間に1日以上滞在はできないものの、数分間の無重力を体験することができる小宇宙旅行とも呼べる宇宙旅行です。
ISSへの宇宙旅行は、民間の日本人として初めて前澤友作さんが2021年に12日間にわたって滞在し、YouTube配信や映画も制作されていたので、覚えている方も多いのではないでしょうか。前澤さんは、スペース・アドベンチャーズという宇宙旅行会社を利用し、ロシアのソユーズロケットでISSに向かいました。ISSに滞在をするため、前澤さんは約100日間の特殊な訓練を受けて、宇宙旅行に臨みました。
宇宙旅行にかかった費用は明らかになっていませんが、宇宙に行くための費用だけで1人当たり5000~6000万ドル程度かかるといわれています。また、ロケットが飛ぶ仕組みは非常にシンプルであるがゆえに、載せるものの重さによって料金が変わります。前澤さんはYouTubeや映画の撮影のためにさまざまな物を宇宙に持っていかれていたので、その重さ分の料金もかかっていると予想されます。
また、2022年には、Axiom Space(アクシオム・スペース)がスペースXのロケットと宇宙船「クルードラゴン」を用いたISSへの宇宙旅行ミッションに成功しました。その際の費用は1人当たり5500万ドルと発表されていました。
ちなみに、ISSの滞在費用は1泊当たり3.5万ドルとの報道もあります。現在の為替だと日本円にして1泊約520万円と高額ですが、ロケットの料金と並べてみると安く見えてしまいますね。
そして、ISSに滞在しない形での宇宙旅行は、スペースXが2024年に非常に印象的な映像配信を行いながら実現したものです。この宇宙旅行では、民間人初の宇宙遊泳が行われ、最大高度1400キロメートルというアポロ計画以降、有人宇宙船としては最も地球から離れた地点に到達した有人宇宙飛行となりました。本宇宙旅行の費用は明らかにされていません。
“数分間”の無重力体験ではいくら?
もう1つの、小宇宙旅行と紹介した宇宙旅行は、80kmを超える高度まで上昇し、数分間の無重力体験ができるというものです。そして、現在この方式での宇宙旅行を提供しているのは、ヴァージン・ギャラクティックとブルーオリジンの2社となっています。ヴァージン・ギャラクティックの場合は、航空機の下にくっついた、飛行機のような見た目の宇宙機に搭乗します。航空機が高度15kmまで上昇した後、宇宙機のロケットエンジンを点火して、高度80kmまで上昇します。その金額は、45万ドルとなっていました。現在、ヴァージンギャラクティックは新型の宇宙船を開発中で、2026年には毎月8回の宇宙旅行が行われる計画が立てられています。
また、ブルーオリジンは、アマゾンの創業者、ジェフ・ベゾス氏が設立した会社です。ブルーオリジンの宇宙旅行では、垂直に打ち上げられるロケットを使用します。ロケットの上部には、乗客が登場するカプセルがあり、高度100kmを超えるとカプセルが切り離され、数分間の無重力体験を楽しむことができます。2021年にはジェフ・ベゾス氏自身も宇宙旅行を楽しみ、話題となりました。現在のブルーオリジンの宇宙旅行の料金は正式に公表されていません。
加えて、日本では、PDエアロスペースが有人宇宙旅行を行う宇宙機の開発を進めています。最新の資料によると価格は1人当たり3000万円となっており、1回当たり5人の乗客で年間の打ち上げ回数は218回、搭乗率は92%で年間の売上は約300億円になることが想定されています。

『宇宙ビジネス』(中村友弥著/クロスメディア・パブリッシング)
宇宙ビジネスメディア「宙畑」編集長。宇宙ビジネスを分かりやすく伝える記事の企画・編集、100件を超える宇宙関連企業や宇宙ビジネスに関わる個人へのインタビューを実施しながら、衛星データを利用した海釣りやロケ地探しなど、自らも宇宙技術を活用しながらそのノウハウを公開。2019年には宙畑の立ち上げメンバーと株式会社sorano meを共同創業し、宇宙技術の利活用促進に従事。書籍に『宇宙ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。