自虐でしのいでいたけれど
「パート仲間で、私がいちばん年上なんですよ。勤続年数もいちばん長い。社員さんとパートさんに挟まれて、どちらからも疎まれているんじゃないかとずっと気を遣ってきました」オリエさん(57歳)はそう言った。これまではずっと自虐的に笑いに変える方法で周りに気を遣わせないようにしてきたつもりだった。
「だけどあるとき30代のパートさんたちから、『あの年で自虐はイタいよね。もっと堂々としていればいいのに』と言われているのを知ったんです。そうか、自虐はかえってかっこ悪いかと思い直し、それからは年齢なんてどこ吹く風というふうに振る舞っていました」
ただ、それはそれで「社員でもないのに偉ぶっている」「最近、開き直ってるみたいね」と噂された。どう振る舞っても、見る人によっていろいろ言われてしまうのは仕方がないかもしれない。
悪いのは私
「私が悪いんですよ。私は私と思えない。いつでも周りの目を気にして、思ってもいないことを言ってしまったりするから。私、短大を出て就職先も決まっていたのに、卒業直前に父が倒れ、介護が必要となったんです。当時は介護保険もなくて、家で看るしかなかった。弟や妹がいたので、母はもともとしていた仕事を続けるしかない。私は就職を辞退して家事をすることになりました」その後、父は亡くなり、オリエさんは就職を目指したが正社員にはなれなかった。アルバイト先で知り合った男性と結婚したのは26歳のとき。二人の子をもうけ、今の会社では20年働いている。
「正社員にならないかと言われたこともあるんですが、私は子どもを優先したかったのでパートのままここまで来てしまいました。誰かと争いたくないし、あくまでパートだから正社員を立てようという意識も強かった。それでいつも曖昧な態度をとるようになっていたんだと思います」
自虐に走ったのもそのためだった。年齢が上だから、仕事歴が長いからと自意識が強くなり、周りに対して不必要なまでに過剰に忖度(そんたく)してしまっていたのだろう。
「どう見られてもいい」
そんな中で、正社員として還暦を迎える女性と話す機会があった。彼女も他の同期がすべて辞めていったので、たった一人で50代を過ごしてきた。「一人で闘ってきたんですねと思わず言ったら、『私は誰とも闘っていないわよ』と軽やかに笑うんです。『オリエさん、肩に力が入りすぎ』って。年とったからバカにされたくないとか、年とったから偉そうにしていると思われたくないとか、いつもそんなふうに考えているでしょうと。確かにそうなんですよね」
明るくてラフで、誰かが頼りたくなるような存在。そんな女性を理想としていたオリエさんだが、「周りがどう見るかは周りの自由よ。そうじゃないと本人が言っても無駄」とその女性は言った。
「あなたが好きなように振る舞って文句が出なければそれでいいじゃないと言われました。あなたはあなたらしくしていればいい。私が聞いた範囲では、あなたはいつも周りに声をかけたり、忙しそうな仲間がいたら手伝おうかと言ったりしてる。自分が思うよりずっと慕われていると思うわよって」
年齢を重ねたからこそできること
それを聞いてオリエさんは思わず涙ぐんでしまったという。見ている人は見ているのだ。表裏なく、仕事や仲間に誠意を尽くしていれば、どうあっても非難はされない。「非難されたくないと控えめにおとなしくしているより、もっと積極的に気楽な雰囲気で仲間を盛り立ててほしい。会社があなたに望むのはそういうことだと思う」
年齢を重ねたからこそできることもあるんじゃないのかなと彼女は言った。邪魔にならないよう、人から非難されないようと心を砕いてきたオリエさんだが、少し視点が変わったそうだ。
「私、結局はビクビク生きてきたんだなって。自分に自信が持てなかった。長く生きてきて、長く働いてきて、特にもめごともなくやってこられたことについては、もう少し自信を持ってもいいのかなと少し思えるようになりました」
オリエさんはそう言って笑顔を見せた。その笑顔は人を癒やすような温かいものだった。