森林原人さん（右）と筆者が「セックスレス」をテーマに対談
生涯「1人の相手とし続ける」のは無理なのか？
三松：私は25年にわたりセックスレス問題に向き合ってきましたが、突き詰めると夫も妻も“つまんない”からしたくなくなるのです。レスカップルが増加する背景やセックスの本質について（森林）原人さんは、どう考えていますか？
森林原人さん
森林さん（以下、森林）：セックスレス夫婦の背景にあるものとして、 まずは「恋愛・結婚・セックスの三味一体」という考え方があります。森林原人プロフィール
もりばやし・げんじん｜AV業界25年目。近年は男優業を減らし、性愛に関わる事象の経験、研究、考察を通して、その本質を再定義、発信する活動に注力。セックステクニック教材の配信やオリジナル映像作品から学ぶセミナーを開催。主な著書に『偏差値78のAV男優が考える セックス幸福論』（講談社）『イケるSEX』（扶桑社）がある。
恋愛というのは、感情の出来事です。感情は揺れ動きます。今日好きだった人を、明日は嫌いになるかもしれない。セックスは、欲望の行為です。欲望も移り変わる。そして、結婚は制度で固定されています。この結婚という枠組み、コップの中に変化する感情と欲望を閉じ込めた状態が恋愛・結婚・セックスの三味一体というわけです。
この三位一体を実現できている人もいると思います。実際にセミナーで全国を回っていると、「私はできている」という人がいる。でも、本当に実現できている人は僕のセミナーに来ないです。実はパートナーとのセックスに不満で、別の相手がいたりする。
欲望には際限がないし、移り変わっていく。これを満たし続けるには、お互いに相当な能力と技術、意識の高さが必要になります。
僕のことを言うと、僕たちは仕事として行為ができるわけです。そういう意味では、普通の人とは違う。忙しいとか疲れてるとか、そもそもしたくないとか、いろんな理由でパートナーとのセックスを断りたい時、普通の人なら言い訳を考えると思います。でも僕たちは「とりあえず挿れて出そう」なんですよ。
三松：普通の人とはちょっと違います。職業が（笑）。
森林：でも、それを男性達に言っても「できるわけねえだろ」と。僕も45歳になった今、それができるのかというと自信がない。そうなると、三位一体を実現できない人たちは「ずっと1人の相手とし続けるのはまず無理だ」という前提を持った上でどうするか考えるべきなのではないかと思います。
男性と女性で異なる「性欲のあり方」
森林：この考えに至った時に、僕は他の人とすればいいじゃないかって提案をしたんですよ。でも、特に女性は好きな人としたいという気持ちがあって、男性のように即物的な相手選びができないわけです。男性用風俗には「フリー利用」という、相手を指名せず店側が選ぶシステムがあるのですが、女性用風俗では利用者の女性は必ず相手を指名するそうです。
三松：（フリー利用は）女性には選択できないシステムでしょう。やっぱり自分好みの人じゃないと。
森林：もし指名したい相手の予約が取れなかったら、女性は1カ月先でも予約する。でも、男性用の風俗で1カ月先の予約をする人はいないんですよ。男性と女性は性欲のあり方が違っていて、女性は相手とのストーリーや関係性が行為の欲求につながるんですね。
三松：それを男性の原人さんが言ってくれるのはうれしいです。
森林：僕もこの話を聞くまで理解できていなかった。男性はみんな分からないと思う。
AVが現代人のセックス離れを加速させている？
現代人のセックス離れを加速させるものとは
なぜかというと、そこで描かれている男根主義の世界観が現実に即していないからなんです。『水戸黄門』で最後に印籠が出てきて一件落着するように、AV（アダルトビデオ）では男性器が出てくる。これが出てくると、どんな作品でも女性はメロメロになるという前提なんですよ。
三松：違うのにね。
森林：違うんだけれども、AVを見た男性たちはそういうものだと考えるわけです。
現場で女優さんたちに聞いて分かったことなのですが、女性は実際には男性器へのこだわりなんてないんです。多少の大きさの差はあっても、それで良し悪しを判断することはない。でも、男性達は1cmの大きさに命をかけるんですよ、本当に。銭湯に行くと、小さくて悩んでいる男性は洗い場に入る前にちょっと自分で触って大きくしてから入りますから（笑）。
三松：男性ってそういうものなんですね（笑）。
森林：見栄を張りたいんですよ。誰も見てないのに。それでも気にするわけですね。
何よりの証拠に、男性向けのコンテンツには巨根モノというジャンルがある。これは女性向けのAVにはありません。
三松：求められていないから。「エロメン」が出ていればいいの。
森林：そんなことを言うと男性を敵に回しますよ（笑）。でも、それで男性の思考が狂っていくんです。
AVでは、女性の性反応は演出されているから現実とは違うんです。僕が経験上、立派な女優になったなと思うのはキスした瞬間にあえぎ出した時。現実ではありえないですが、キスした途端に「あふん」って言ってくれる。出演を重ねていくと、目の前に男優が立っただけで、条件反射であふんって言ってくれるようになるんですよ。AVを見た男性たちが、それを普通の反応だと思い込んでいたら、一般の人とした時に「何だこいつ？」となる。
三松：AVの弊害ね。
森林：自分の頭の中にあるものと現実がどんどん違ってくる。AVで培われた誤った性価値観と、社会的常識とされている三位一体の枠組みが、セックスレスのきっかけの1つになっているのではないかと思います。
セックスで重要なのは“快”
森林：それ以外にも、男女関係なく、そもそも気持ちよくないからしたいと思わないこともあると思います。一般的に、男性は射精すれば気持ちよくなると思われがちですが必ずしもそうではないし、男性がすれば女性も自分と同じように気持ちよくなるわけでもない。
三松：全然違います。
森林：欲望の話に戻るのですが、食欲とか買い物欲とか、きれいになりたい欲……この欲というものは、先ほど言ったようにどんどん溢れてくるわけです。
性欲もそうですが、その対象にはやはり“快”があるはずです。食欲にはおいしいという快があるからまた食べたくなる。買い物には楽しみや所有欲が満たされること、きれいになることには、褒められたり、鏡に映る自分を見て喜べる、そういう快があります。
二人の行為にも快があれば、またしたいと思うはずです。でも、それがなかなか難しい。技術的な問題もありますが、女性たちに言いたいのは、まずは自分の身体を育てていくことが重要だということです。
三松：私も本当に同じ考えで、ずっとそのことをアドバイスしています。
森林：では何をすればいいかというと、まずはセルフプレジャーで自分の身体を育ててくださいということがよく言われます。
自分の身体の喜び方、喜ぶポイントを知っていないと、相手に伝えることもできないわけです。男性からしても、自分で気持ちよくなったことがない人を気持ちよくしてくださいと言われても困ってしまいます。最新機種のスマホを渡されて「使いこなしてね」と言われるようなものなので、まずは、ある程度自分でトリセツを作ってほしいということです。
トリセツを作って男性に伝えても、やっぱり男性側にもある程度、基本操作の技術が必要になるので、そこは僕たちが教育しますよと。スタートの仕方やタッチの仕方とか、基本的なことを学んだ後は2人で高めていくことで快が生まれます。快がミルフィーユのように積み重なって、1回目より100回目の方が気持ちよくなれば、理屈としてはレスにはならないはずです。
＞【#2】「終わりの始まり」兆候はこれ……森林原人×三松真由美が指摘する「レス」カップルの共通点
