苦しいけれどなんとかやっている毎日
「うちは大学生の娘と高校生の息子がいます。生活は苦しいですね。夫は中堅企業で働いていて、世間が言うほど給料は上がっていない。私はパートで仕事をしながら倹約に努めています。家のローンもまだまだあるし、娘には一部、奨学金を借りさせるしかなかった。親としてはちょっと忸怩(じくじ)たるものがあります。さらに夫と私、それぞれの親の介護も視野に入ってきていて、今後、どうやりくりしていけばいいのか……」そう言ってため息をつくヤヨイさん(48歳)。5歳年上の夫ともども、今は元気だからいいけど、万が一、どちらかが病気でもしたらあっけなく家が傾くと不安そうだ。
「うちの両親は70代後半で、年金だけでなんとか暮らしています。ぜいたくはできないけど、家もあるからなんとかなる、心配するなと言ってくれて……。問題なのは夫の母親です。義父は10年前に亡くなりましたが、義母は80歳で一人暮らしをしています。この義母が経済観念のない人なんですよ」
義母の問題行動
夫は一人っ子なので、父親が亡くなったときに母親を引き取ろうとした。だが母は拒絶した。当時は「やっぱりお父さんと暮らした家を離れたくないらしい」と言っていたが、実はホストクラブにはまっており、夫の保険金を使い込んでしまったことがのちに発覚した。「夫はものすごく怒って母親に絶縁状を叩きつけた。でもその後、義母が体調を崩すと、やはり見捨てることはできなかったみたいで、時々行っては面倒を見ていました。私は結婚したころ、義母に『あんたに似たら子どもがかわいそうだね』と言われたことがあって、それ以来、義母のことは避け続けてきました」
夫は「おふくろはろくに年金もないみたいだ」と月々、数万円を送るようになった。家計が苦しいのにとヤヨイさんは反対したが、夫は週末、アルバイトをしてその分を母親に送ると言い張った。実の親子の間に自分は割り込めないとヤヨイさんは感じたという。
娘がアルバイトをするようになった理由
大学生になった娘が2年生になると急に帰宅が遅くなった。アルバイトを始めたのだという。「週に2、3回ならまだいいんですが、ほとんど毎日、午前様状態。しかも喫茶店でバイトをしているというのに、時々酔って帰ってくる。20歳になっていたからいいようなものの、心配でたまらなかった。娘は私に反抗したことなどなかったのに、何か言うと『もう大人なんだから放っておいて』とにらみつけてくるんです」
娘も無理をしたのだろう。1年もたたずに体を壊して入院するはめになった。退院して自宅療養をするやつれた娘を見るに見かねて、ヤヨイさんは「どうしたの、何があったの。まだ若いあなたがつらそうなのを見ていられない」と声をかけた。
「娘はスナックでアルバイトをしていました。そこまではまだいいんです。いったい、何にお金を使っていたのか聞いたら、『おばあちゃんの生活費』だという。ひっくり返るほど驚きました。義母の生活費の足しにと夫からいくばくか行っているはずなのに。娘は以前から時々義母のところに一人で行っていたようなんです。義母と私の折り合いが悪いので、私には言えなかったと。そして義母が私の悪口を吹き込み、生活が苦しいと娘に訴え、娘がそれを真に受けてアルバイトをして義母にお金を渡していた……」
さすがの夫も行動せざるを得ない事態に
義母はそのことを息子(ヤヨイさんの夫)にも話していなかった。結局、息子と孫、両方からお金をせしめていたようだ。ヤヨイさんはすぐに夫にそれを話した。さすがの夫も驚いたようで義母を問いただしたところ、「バレたか」と言ったとか。
「夫は娘に謝っていました。しかも義母が吹き込んだ私の悪口は嘘ばかり。娘はそれを信じてしまったことを後悔していた。でもそんなことはどうでもいいんです。いい年した義母がそうやって孫を脅すようなまねをしてお金を取り上げるって、どういうことよと。お義母さんに文句言ってやると私が言うと、夫がそれだけは勘弁してほしいって。自分がなんとかするからと」
結局、夫は実家を処分して母親を高齢者施設に入れた。嫌がった母親だが、「これ以上、娘を傷つけないでほしい」と非難したら、舌打ちしながら黙り込んだという。
「夫もショックだったと思いますよ。実母がそこまでひどいことをしていたとは思っていなかったでしょうから。今、ようやく家庭は落ち着いてきました。家族がもう一度、心を開いて話せるよう、夫と頑張っていくつもりです」
いい娘だからこそ、そして家族だからこそ、こういう事態も起こり得るのだとヤヨイさんはしみじみと言った。
<参考>
・「2023(令和5)年 国民生活基礎調査」(厚生労働省)